【予告編】累計出荷1億個!G-SHOCK生みの親による、アイデアの引き出し方とは?

インタビュー 2018/10/15

未来志向の人々が学び合い交流する場である「WASEDA NEO」では、さまざまな業界で活躍するイノベーターを講師にお招きして“パイオニアセミナー”を開催しています。セミナーでは、成功の裏側にある数々の「失敗」と、10年後・20年後の「未来」をテーマに講義いただきます。

 

来る10月23日の講座は、歴史的大ヒットを記録し、世界中にファンを持つ腕時計「G-SHOCK」の生みの親、カシオ計算機の伊部菊雄氏が登壇します。累計出荷一億個を誇るG-SHOCKは、たった一枚の提案書から生まれた──。そのロングランは、いかにして成し遂げられたのでしょうか?

 

講座では、即実践できる「上司を動かし、巻き込む方法」なども明かす予定だという伊部氏。「G-SHOCKマーケティングの真髄」を語る講座に先駆けて、ブランディングの思考やアイデア発想法の一部について伺いました。

 

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<プロフィール>

カシオ計算機株式会社 羽村技術センター開発本部時計企画統轄部企画統轄室 アドバイザリー・エンジニア

伊部菊雄 氏

 

上智大学理工学部機械工学科卒業。カシオ計算機入社後、デジタル時計の構造開発を担当。1981年「落としても壊れない丈夫な時計」の一行テーマを掲げ、耐衝撃構造の開発を開始し、2年後に「G-SHOCK」として商品化。

 

その後、外装にメタルを用いたG-SHOCK「MR-G」を実現、電波ソーラーの「OCEANUS」や高品質&低価格(愛称:チープカシオ)の商品企画に従事。現在は企画業務を行いながら「Father Of G-SHOCK」として世界各国のG-SHOCKのイベントに参加し、ブランドの世界観を広める活動を行う。G-SHOCKは2017年9月で累計一億個の生産を達成。時計業界を代表するヒット商品になっている。

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いつも「ゴミを作っていないか?」と自問自答する

──G-SHOCKの開発は、大切な時計を落として、バラバラに壊れてしまったところから企画がスタートしたのですよね?

 

伊部氏:「時計は壊れるもの」という常識どおりに時計がバラバラになると、心が痛む前に感動してしまったのです。そこから、『落としても壊れない丈夫な時計』というたった一行の提案書ができ上がりました。実は、開発段階で明確なターゲットを持っていました。「この時計を誰が喜んでくださるのか」ということを考えている時、職場の前でたまたま道路工事の現場を見かけたのです。そこにいた5人の作業員は、誰も腕時計を付けていませんでした。ということは、誰もが時間をチェックするとき、バッグからその都度、時計を出して見ているということです。そのとき、「この商品は喜んでもらえて、絶対に役に立つはずだ」と確信しました。

 

──G-SHOCKのターゲットは道路工事をする5人だったわけですね。

 

伊部氏:「誰かに喜んでもらえて、役に立つ」というテーマは、昔も今も変わっていない出発点です。ただ、今は世の中に物があふれている中で、「何を作るべきか」がものすごく難しくなってきているとは感じます。たとえば、「売れているから」という理由で、同じような物が作られているのではないでしょうか?だからこそ、いつも自問自答しているのは、「ゴミを作っていないか?」ということ。要は、「本当に必要な物かどうか」を常に考えているのです。

 

考え方の「枠」を外すための合言葉

── 企画のプロセスも難易度が高まるし、必要性の見極めは難しそうですね。

 

伊部氏:企画の考え方はケースバイケースですが、私が若い世代へ伝えているのは「アプローチの仕方はたくさんある」ということです。今は学業も優秀な方がたくさんカシオに入社しているのですが、「考え方に枠がかかっている」と感じることも多いです。

 

たとえば、若い女性向けの商品のアイデアについてディスカッションしてみると、商品化には至らなそうな案がたくさん出てきます。そこで、「若い女性と言われて、どういう人を連想した?」と聞くと、彼らは特定のファッション雑誌に出てくるような女性ばかりを挙げるのです。まさに「枠」にとらわれた状態ですね。

 

若い女性とひと口に言っても、運動している人もいるし、まったく外出しない人もいるなど、いろんな人がいるわけです。「そういう人へ向けるなら、どういう物を作ればいい?」と問うてみると、出てくるアウトプットがまったく変わってくるのです。

 

あるいは、ターゲットから入って企画を出すと決めると、そのアプローチしかできなくなることもあります。「仮にターゲットだけでなく、自分の実体験から見てみては?」と声をかけて初めて違う見方ができる。もちろん、ターゲット先行で考えて、毎回良いアイデアが出るなら、それでいいのです。ただ、出なかったときに違う角度から考えられることこそ、もっとも大事だと思うわけです。

 

──まずは自分の枠を認識し、それを外すことから始めようということですね。

 

伊部氏:視点を変えることができれば、枠が外れている、と言えるでしょう。

 

──あるいは、先ほどの「本当に必要な物か」を考える時にもつながってきますね。

 

伊部氏:私がよく言うのは、「とにかく一回チャラにしよう」ということ。でも、「チャラにしよう」の意味がいまひとつわかってもらえないのです。この意味をストレートに理解できるかどうかが重要です。できない人は、「なかったことにするなんて冗談じゃないか?」なんて言ってきます(笑)

 

新しいG-SHOCKを考える際にも、私は「G-SHOCKを一回なかったことにしよう。ただし、丈夫であるという制約だけはつけよう」とメンバーに伝えました。以前作ったものから導く次のものも必要かもしれないけれど、それでは、斬新な物は一切生まれません。

 

──まさにG-SHOCKブランディングの神髄だと感じました。「丈夫である」というコアだけを担保すればG-SHOCKになるという考え方に至れば、これまでの延長線上にはない物が出てくるかもしれませんね。

 

伊部氏:G-SHOCKに限らず、すべてがそうなのだろうなと思います。私は「チープカシオ」という愛称で呼ばれているシリーズの商品企画もしていますが、その本質は「高品質で低価格」です。おそらく、本質を突き詰めないままに商品が作られていると、一歩間違えると「本当に必要なのか?」という疑問が浮かんできてしまいます。

 

最近は、「今までの商品を元に、すこし進化させれば新製品」、そういう考え方が多くなってきてしまっているのかな、という気がしますね。

 

アイデアを引き出すのもリーダーの仕事である

──各自が枠を外す訓練もしなければなりませんが、上司やリーダーこそ持つべき思考とも感じますが、いかがでしょうか?

 

伊部氏:アイデアを引き出すことも、上に立つ人の仕事ですね。誰でも引き出し方によって能力を発揮できると私は考えています。

 

それを実感したのは、小学生向けに開催している発明教室での出来事でした。要請があれば過疎地にも出向きますし、以前も山口県にある全校生徒5人の小学校へ行きました。

 

「落ちこぼれを作らない」を合言葉に、最終的にはアイデアをスケッチにまとめてもらうことがゴールです。技術的な実現可能性はさておき、その場ではいつも斬新なアイデアが出てきますよ。そこでの経験から、能力をきちっと出してあげるのは上司の役目、と思うようになったわけです。もちろん、自己反省でもありますよ。

 

──小学生にどういった声かけやお題を出すと、アイデアが出てくるのでしょうか?

 

伊部氏:まずは頭の体操をします。「朝、起きたときから学校へ来るまで、目を開けていろんな物を見ていますね。動物や植物を除いて、頭の中に今、いちばん残っている物を挙げてみてください」と問います。すると、ある子どもは「教室のカーテン」と答えてくれました。

 

さらに、「では、カーテンはどんなふうに役に立ちますか?」と聞きます。外から見えないようにする、陽が入らないようにするといったように、「役に立つこと」が次々に出てきます。そこで変化球として、おいしそうなケーキのスライドを見せます。「このおいしそうなケーキは、どんなふうに役に立ちますか?」と問うてみます。

 

──ケーキで「役に立つ」という発想はしたことがないですね。

 

伊部氏:大人から見ると、そうですよね。でも、子どもたちの発想はすごいから、驚くようなものが出てくるのです。たとえば、「元気が出るから、お母さんにプレゼントしてあげられる」とか。

 

そこで初めて、「物は必ず役に立つように考えられています。まずは役に立つものを考えて、実現することが発明です」と話します。そこまで済んでから、「みんなが今、困っていることがなくなったり、できたら嬉しいことが叶えられたりする時計を考えてみてください」というお題を出します。

 

たとえば、その場にいる大人のスタッフ全員が「欲しい!」と言ったのが、自分が嫌だと思う人が近づいてきたら知らせてくれる時計です(笑) 小学生でも、そういうストレスを感じているのです。開催するたびに、自分の思考回路にないものばかりで本当に感動します。私も他人へ「考え方の枠を外しましょう」と口では言っていても、実際に枠をかけてしまっていたことを反省させられます。

 

だからこそ、誰しも引き出し方によって能力を発揮できると思うのです。それをせずに、メンバーや部下に「お前は何もアイデアが出せないじゃないか」なんて言うのは、本末転倒ですね。

 

チャレンジを阻害する3つの要因

──今回の「パイオニアセミナー」では、既成概念にとらわれて壁にぶつかっている方もいらっしゃると思います。受講者の方に向けてメッセージをお願いします。

 

伊部氏:「パイオニアセミナー」でもお話しするつもりですが、最近、企業からの講演依頼は「チャレンジして実行する力」に一点集中しています。講演に参加する人の顔ぶれも、若い人よりも40代から50代が多くいらっしゃいます。上からも下からも突き上げられ、軋轢を感じているのだろうと思います。

 

では、なぜ、チャレンジしないのかを考えると、私の中では3つの理由が浮かんでいて、大企業になればなるほど、その傾向が強いと感じています。理由の一つ目は、会社は安泰だという勘違いから起こる「現状維持の思考」。二つ目は、「チャレンジ意欲はあるけれど、アイデアの出し方がわからない」。三つ目は「抵抗勢力が大きくて協力を仰げない」。それらを自分の経験上、いかに変えてきたかをお話しできればと思っています。

 

──アイデアの発想法はぜひお聞きしてみたいです。

 

伊部氏:一般的な発想法に加えて、すぐに取り入れられる独自のやり方も紹介します。上司に企画を認めさせるノウハウ、周囲への協力の仰ぎ方についても、私のたくさんの失敗と経験から得た考えをお伝えします。

 

──続きはセミナーで、たっぷりと伺いたいと思います。今日はお忙しいところ、ありがとうございました。

 

伊部氏によるパイオニアセミナー『累計出荷1億個のG-SHOCKマーケティング』の詳細はこちらをチェック。

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