2019年3月6日に開催したパイオニアセミナーでは、家事代行をシェアリングできる画期的なサービス「タスカジ」を生み出した和田幸子氏にご登壇いただきました。
女性の本格的な社会進出を背景に、働くママとして、自分が必要とするサービスが社会課題に直結すると確信した和田氏。
起業を志し、ゼロベースからの新しいサービスの作り方について、失敗談も交えながらお話しいただきました。当日のセミナーから一部抜粋してレポートします。
株式会社タスカジ代表取締役
和田幸子氏
1975年生まれ。横浜国立大学経営学部を卒業後、富士通株式会社に入社。エンジニアとしてERP製品の開発に携わる。2005年、企業内派遣制度で慶應義塾大学大学院経営管理研究科へ入学しMBAを取得。2008年に第一子出産を出産したのをきっかけに、自身の課題でもあった「共働き家庭における新しいライフスタイルの実現」に必要な社会インフラを、ITで創りたいという想いから起業。2014年にITを軸とした新サービス「タスカジ」を立ち上げる。日経BP社日経DUAL「家事代行サービス企業ランキング2017」で1位を獲得したほか、「日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー2018 働き方改革サポート賞」を受賞。
2014年に誕生した「タスカジ」。C to Cマーケットプレイスで“家事をサポートしたい個人”と“家事をお願いしたい個人”が出会って取引ができるプラットフォームのビジネスモデルです。現在、家事を依頼したいと考えるユーザー約5万人、ハウスキーパー約1,600人が登録し、右肩上がりに登録者を伸ばしています。
和田氏はこれまでエンジニアとして勤務する中で、結婚を機に共働きになりました。出産後に必要にかられてネットで知り合ったハウスキーパーに家事をお願いするようになり、自分も人も働きやすい社会を作りたいと思ったのをきっかけに、「タスカジ」を世に生み出します。当時の逼迫した心境を吐露しました。
「共働きとなり、毎日の家事が消化不良で、汚く散らかった家に帰り、心が荒れる毎日でした。こんな状態では、キャリアアップなんてとても無理だと感じていました」
そんな実体験から、解決したい課題を突き詰めていった和田氏。家事代行の市場リサーチをしていく中で、例えば内閣府のアンケートでは、「あなたは仕事で活躍できていますか?」という質問に対し「いいえ」と答えた女性が、なんと72%というデータもありました。国内の共働き世帯の夫の家事・育児の分担率はかなり低く、子供の年齢が上がれば上がるほど夫の負担は減るのに、妻の負担は変わらないというデータもあり、こうした現状が女性のキャリアアップの弊害となっていることが、実体験とともに裏づけられたといいます。
一方で、働く女性が増えてきたとはいえ、まだまだ「家事は家庭内でするもの」「他人に家事を任せるなんて」という風潮があって、家事代行の利用率もかなり低い状況にあったといいます。「多くの働く女性が家事代行を利用しない理由は『価格が高いから』なのですが、働く母親として、同じ気持ちでした」と、当時を振り返る和田氏。
そんなある日、和田氏が英会話の外国人講師に仕事と家事の両立の大変さについて吐露したところ、「1時間1,500円くらいで家事代行してくれるハウスキーパーと出会えるネット掲示板」の存在を教えてもらったことが、起業のヒントに。
「さっそく試してみることにしました。でも、出会うきっかけを作る掲示板なので、レビューがあるわけではないし、いい人なのかどうかも会ってみないとわかりません。登録しているのは外国出身の方がメインなので、価格交渉も直接英語でしなければならず、日本人にはハードルが高いものでした」
その後、会社を退職し、資本金200万円を元出に「タスカジ」を立ち上げました。3年をかけてサービスを軌道に乗せた和田氏。その間さまざまな失敗を繰り返したという和田氏の実体験から、起業を成功させるポイントについていくつか語っていただきました。
<自分が本当に欲しい!と思えるサービスを創る>
もともと起業に興味があったことから、会社員時代に社内の派遣制度を利用して大学院でMBA取得を目指している時に、大学院の仲間と有志で起業にチャレンジした経験もあるという和田氏。そのときの失敗経験からの大きな気づきについて振り返ります。
「起業に興味のある同級生たちと半年ほど頑張ってみましたが、惨敗でした。その理由としてまずあったのが、失敗以前の問題ですが、メンバーが10人もいたため、“どんなビジネスで起業するか”がまとまらなかったことです。ようやくテーマが決まっても、それは私がやってみたいテーマではありませんでした。すると、途中でさまざまな課題が出てきたときに『私の人生をかけてやるべきことなのか』という疑問が出てきて、だんだん興味を失ってきたのです。やはり、自分の思い入れのあるテーマでないと、山あり谷ありの課題が来たときに乗り越えられないものなのだということが、身に沁みてわかりました」
この経験から和田氏は、「次に起業するのは、自分が心からエネルギーをかけても良いと思えるテーマが見つかった時!」と心に決め、その後、実体験として家事代行の必要性を痛感し、自分の人生を賭けても良いと思えるテーマだと捉え、「タスカジ」を生み出すに至ります。
<自分の強みに自分が持っている課題をかけ合わせて、強固な軸を作る>
和田氏は起業するにあたり、あらためて自分の「強み」について考えたといいます。
「私はエンジニアをしていたので、少なくともITに関する知識はそれなりにありました。それから、社内の新規事業系のセクションにいたことから、新規事業の立ち上げもたくさん経験してきました。しかし、これだけだと私以外にも大勢いて、たとえ起業したとしても成功する要素としては弱いと思います。でも、私にはもうひとつ強みがありました。それは、私は「家事代行サービスを上手く見つけられないワーキングマザーである」ということです。しかも、女性が活躍できない世の中に対して非常に腹を立てていました。この問題を解決できるなら自分の人生をかけてもいいと思えた。これらすべての要素を持っている人がいるかを考えると、私しかいないのではと初めて思えました」
新しいものを生み出したいとき、元々自分が持っている強みに、自分が情熱を注げる課題を組み合わせれば、「日本で1人しかいない人材」になれるかもしれないと提唱する和田氏。
<三者ウインウインのビジネスモデルを構築>
「タスカジ」は、家事の代行を必要とする多くの家庭にとって救世主となり得るサービスですが、一方で、ハウスキーパーとして家庭を守ってきた専業主婦のキャリアを活かす「もうひとつの働き方改革」を実現しています。
「当時はまだ、世の中に『主婦の仕事なのに他人に家事を頼むなんて』という固定概念がありましたが、共働き世帯の増加とともにニーズが確実に増えています。一方で、お手伝いさんは単純労働と思われがちでしたが、予約のとれないほどまでに人気があるプロフェッショナルな主婦の登録者が増えて、クリエイティブな仕事だと言われるようになりました」
家事代行サービス自体は、大手企業を含め多数存在しますが、タスカジはそれら業界大手を凌ぎNo.1のサービスとしてメディア主催のアワードにも選ばれました。その理由は他社ではなかなか実感できないコスパの良さに加え、「主婦業を仕事にする」という新しい働き方を生み出した点が評価された、と説明する和田氏。
<地道な広報活動に注力>
3年がかりで事業を軌道に乗せるまでに、200万円の資金で乗り切ったという和田氏。広告費をかける余裕がなかったため、主としてメディアへのアプローチに注力してきたと語ります。「そもそも、家事代行を利用する文化を作らないとなかなか受け入れられないサービスであると考えていました。家事代行への罪悪感の解消も課題でしたし、既成の概念を払しょくして新しい価値観を植え付けるためには、単純な広告では心を揺さぶられないという考えがありました」
サービスインしてから3カ月でテレビのニュース番組で紹介してもらえたことを皮切りに、徐々にメディアを味方につけていった和田氏。もちろん、その裏にはメディアの目に留まるための地道な努力がありました。
「いきなりテレビ局から取材を申し込まれたわけではなく、週に2本ほどブログを発信しては、Facebookでシェアしていました。それをママ友などが拡散してくれた結果、知人が主催する勉強会から小さな講演依頼が来るようになりました。もちろん無報酬です。このとき、良い写真で良い記事を作り、それを再び発信することで、わらしべ長者的に大きな講演会からもお声がかかるようになっていきました。やがてメディアからも、当社のサービスを紹介したいという問い合わせが入りました。ポイントは、“世の中の話題よりも一歩先を行くこと”。タスカジの場合、登録者に外国出身者が多いことも話題となりました。現在の登録者の中では、フィリピン出身者の方が多いです。フィリピンの方は英語が流暢で、日本語はカタコトでもコミュニケーションを容易に取ることができます。また、むしろ英語ができる方が家事をしてくれることで、育児面でもとても良い効果があるという点が付加価値と認識されました。ほかにも、日本人登録者が家事代行時に“食事の作り置きサービス”を開始し、そのクオリティの高さなども取り上げられるようになりました」
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現在は関東と関西で展開するタスカジ。和田氏は、「都市部では共働きにクローズアップするほか、地方では一人暮らしのシニアなどにもサービスを拡大したい」と今後の豊富を語り、締めくくりました。
当日、講演後には受講者から多くの質問が飛び交い、盛況のうちにセミナーは幕を閉じました。
新しい何かを生み出すとき、「自分ができること」と「自分の人生を賭けられる課題」を組み合わせて強固な軸を作る考え方は非常に説得力があり、多くのヒントをいただける内容でした。「日本に1人しかいないかもしれない自分」と出会い、新たな一歩を踏み出すきっかけやヒントを得られるセミナーとなりました。
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