小売業は「メディア」になる? 全国から注目の北九州「サンキュードラッグ」の戦略的デジタルマーケティング

イベント パイオニア・コミュニティ 2020/12/21

高度成長期とともに右肩上がりに伸びていた「小売業」。近年は、「人口減少」「高齢化」「ECの進化」により、事業環境が大きく様変わりしています。

 

そうした中で、政令指定都市中、高齢化率が1位の北九州市を中心に展開するサンキュードラッグは、店舗を増やしながら、5年連続売上を伸ばし続けています。

 

その秘訣は、店舗を主体とした独自の「デジタル戦略」にありました。

 

11月26日のパイオニアセミナーでは、株式会社サンキュードラッグ 代表取締役社長 兼 CEOの平野 健二 氏をお迎えして開催しました。

 

苦境に立たされる小売業の勝ち残り戦略とは? 当日のセミナーを一部抜粋してご紹介します。

 

 

株式会社サンキュードラッグ 代表取締役社長 兼 CEO

平野 健二 氏

1959年北九州市門司区生まれ。一橋大学商学部卒業。サンフランシスコ州立大学でMBA(マーケティング専攻)を取得。 1985年株式会社サンキュードラッグ入社。2003年代表取締役社長就任。 2011年より北九州市立大学経営大学院で非常動講師、2016年より九州大学客員教授を務める。2015年MCEI(スイスのジュネーブに本部をおく国際的マーケティング支援組織)より、国内のマーケティング活動へもっとも貢献した経営者として「2014-2015 Executive Of the Year」を受賞。Segment of One & Only株式会社 代表取締役社長、AJDチェーン本部長、オールジャパンドラッグ株式会社 代表取締役社長を兼任。著書に『これからのドラッグストア・薬局ではたらく君たちに伝えたい事』がある。

 

|事業環境の悪化をチャンスに変えた「サンキュードラッグ」

 

 

ドラッグストアは全国に2万店あり、小売最大の成長セクターと言われていますが、現状は完全にオーバーストア。「人口減少」「高齢化」や「ECの進化」により、これまで店舗数を増やして売上を上げてきた小売の市場は縮小傾向にあります。

 

サンキュードラッグが展開する北九州市の人口減少数は、5年連続1位。さらに政令指定都市中、高齢化率も1位で、本拠地の門司区は、秋田県全体を上回ります。

 

ところが、北九州エリアを中心に74店舗を展開するサンキュードラッグは、1kmごとに店舗を構えるという高い密度で出店し、年商は240億円に上ります。平野氏は、縮小する市場の中にチャンスを見出しました。

 

 

「店舗の近隣に住む人の多くは高齢者ですが、これは医療マーケットの拡大も意味します。それならば商品を宅配した方がいいと思われますが、85%は健常者で、逆に歩かないと健康に寄与できません。そこで、高齢者が歩いて行ける範囲に出店が必要だと考えました」

 

また、高齢化が追い風となり、8兆円の市場規模となった調剤薬局と併設のドラッグストアに可能性を見出す平野氏。

 

「北九州市全体では人口は減っていますが、都市部の人口は減っていません。つまり、人口問題を考えるときに、行政地区ではなく、立地別で見ることが重要なのです」

 

|「店舗」がもつ「メディア」としての可能性

 

今の時代に必要な「小売業」の存在意義について、平野氏は「商品と買い手をマッチングさせること」だと強調します。

 

「売れ筋の商品をただ並べて売るだけではプロとはいえません。本当の小売のプロとは、お客さんが欲するものを熟知して『あなたにはこれをおすすめします。なぜなら〜です』と言える人なのです」

 

その背景として近年は、メーカーの商品開発が“高機能化・パーソナル化・多様化”し、数百種類のアイテムの中から存在認知、個別価値の伝達が必要になったと説明する平野氏。

 

これまで小売業界では、60〜80年代の大商圏型モデルや狭小商圏型モデルの常識である、「売上は客数と客単価に比例する」という理論に支えられてきたといいます。

 

 

しかし、多くの「リアル小売業」はすでに機能不全に陥っていると指摘。店頭のポップで商品の価値を伝えようとしても、お客さんに来店してもらわなくては始まりません。来店頻度や告知のタイミングの問題もあります。

 

顧客1人ひとりに対し、やるべきことが異なる上で重要になるのが、「個別のアプローチによる来店目的の積み上げ」と語る平野氏。これを繰り返すマーケティングが必要で、それにはデジタルやECが必須だといいます。

 

「アマゾンのレコメンドで買ったものはほとんどない(欲しいものがレコメンドされない)という人は多いのではないでしょうか。それはビッグデータによる平均的な分析だから。身近で生活に密着した店舗があるからこそ、お客様の購買ログによって日常が見える「ディープデータ」となるのです。その点、ドラッグストアは、生まれてから死の直前までのライフステージが明確で、購買アイテムは目的と直結し、顧客像を特定しやすいのが強みです」

 

 

|データ分析が「行動変容」や「早期発見」を実現する?

 

よりパーソナルに落とし込んだデジタルマーケティングとして、データとコミュニケーションメディアの必要性を強調する平野氏。その目的は、顧客に「行動変容」を起こし、潜在顧客を掘り起こすことでもあります。

 

また、一般薬や健康食品の購買履歴は、将来の重篤な疾病の早期発見に役立てると考えた平野氏は、ドラッグストアの顧客データを医療に活用する試みについても発表。

 

鎮痛剤を飲み続けることは、脳梗塞や脳出血の前段階の症状として表れるといわれていて、脳神経外科の先生と提携し、そうした顧客を検診につなげたことも。結果、早期発見につながったといいます。

 

さらに、更年期障害初期の人がそれに気づいていないケースにも活用されました。

 

「更年期障害初期の人が買うアイテムが、データである程度わかってきました。そういう履歴のあるお客様に向けて更年期障害のテストを促すDMを送る試みも始めています」

 

|デジタル武装するための国内最大級の顧客データ「Segment of One & Only」を始動

 

平野氏のデータマーケティング活用は、さらにその活躍の場を広げています。国内最大級の次世代マーケティングを実現するために、全国のローカルチェーンと33社・1500店舗とデータを統合した「Segment of One & Only」(以下、SOO)を設立。

 

いかにその人に必要な情報を届けるか?という取り組みで、人口の4分の1をカバーする巨大データ網を確立しています。

 

利用者向けには「ドラポン」というアプリを提供し、個々への有効なアプローチを実現。具体的な事例としては、潜在顧客は多くいるのに、売れ行きが伸び悩むタンポンが挙げられました。潜在顧客に向けて商品の動画をターゲット配信した成功事例について、紹介いただきました。

 

 

動画は、楽しみにしていた海に行けず、がっかりする若い女性のシーンから始まり、誰でも手軽に使えることを訴求したものです。

 

「母親が娘に伝えるという機会もそれほどなく、店内で目立ったポップを出す、動画を流すというのは、店内で人目が気になる方にはかえって注目しにくくなりますよね。でも、スマホでなら個別に観ていただけると考えてターゲットに動画を送った結果、10代後半から20代の若い世代、小さな子供をもつ母親、そして娘に買ってあげる母親の年代の購買につながりました。しかも、この動画を見た9.7%の方が店に買いに来るという驚異的な結果に。動画は誰かに転送することもできるので、本当に必要な人に届けられたと考えています」

 

値下げやクーポンは一切行わずに、“本当に必要としている人が知らない”という状況に着眼し、適切なターゲッティングと有効なアプローチをしたことで、購買に繋がったという例のひとつです。

 

|顧客とのデジタル、そしてリアルでの新しくて複合的な関わり方

 

 

さらにドラッグストアでの調剤薬局の可能性、さまざまな取り組みについて紹介いただきました。

 

「生活習慣病の人の1年以内の治療中断は60%以上と高く、続けるための啓蒙活動も今後、予定しています」

 

さらに、デジタルと店舗をつなぐための効果的な来店促進事例を具体的に紹介する平野氏。

 

 

店頭で買うのが恥ずかしい商品(育毛剤、精力剤、軽失禁用ナプキンなど)はネット購入に流れ、自社の店員でさえ自店で買わないほどだといいます。これを来店に繋げた事例です。

 

きっかけは、明らかに閉経した年代の顧客が生理用ナプキンを使い続けていることがデータからわかったことにあります。そこで「尿もれ用ナプキンの存在を知らない顧客がいる」ことを仮定し、情報発信したといいます。

 

「情報発信とともにアンケートを実施すると、回答者が多くなんと87.5%という驚異の回答率となりました。しかも、『いつも感じよくしてくれるのでよく買いに行くサンキュードラッグからアンケートが来て、私の買物に対するアドバイスまでくれた。すばらしい!』といった内容をTwitterに投稿してくださるお客様までいました」

 

こうした双方向のコミュニケーションが実現し始めて、「リアル小売業はメディアになりつつある」と確信した平野氏。

 

そこから、新商品や季節商品、既存商品の活性化、廃盤・リニューアル商品などそれぞれの課題に対応したマーケティングをするに至ります。

 

|コロナ禍でのリアル小売の課題は?

 

メーカー、卸、バイヤー、店頭、顧客が双方向でコミュニケーションをとれる体制を築いてきたサンキュードラッグ。コロナ禍において、接触販売ができなくなったことをチャンスに変えた取り組みについても触れられました。

 

「コロナ禍でバイヤーと店頭もコミュニケーションがなくなり、この流れが崩壊しましたが、それはすでに起きていたことで、顕在化しただけのこと。店内から店外へ情報接点をシフトし、個別にお客様にとってのベネフィットを伝えながら、自宅や会社、通勤通学時でも情報をチェックいただき、目的を持って来店してもらえばいいことです」

 

CMのように売り手都合の情報発信ではコンテンツへの吸引力はありません。そこで平野氏は、顧客にとって、「楽しい」「役立つ」「幸福になれる」「正しい使い方」「生活局面」を意識した、高い吸引力のあるコンテンツ開発の強化を示しました。

 

その一例として、「すまいるクラブ」という動画コンテンツを通じた、管理栄養士による健康指導について紹介されました。

 

「これまでは週に1〜2度、管理栄養士たちが店頭で、健康アドバイスを通じてお客様との絆を深めていましたが、コロナ禍により、中断を余儀なくされました。そこで、管理栄養士による健康増進の体操を交代で動画配信。あえて乃木坂46のような全員集合の映像を用意しています。なぜなら栄養士の中に “推し”の子、つまり自分が普段通う店舗の栄養士がいるからです(笑)」

 

そのほか、受講者からの直接の質問により、サンキュードラッグが躍進するデジタル戦略以外の秘訣も見えてきました。接客の店員数が多く顧客が質問しやすくしていることに加え、お客さんから相談を受けると、「ご相談いただきありがとうございます」ということで、「サンキューポイント」を付与する仕組みがあるなど、対面での接客も大切にしていることがわかりました。

 

後半では、「将来的には、医学研究や論文にも寄与するビジョンはありますか?」という受講者からの質問に、「もう取り組み始めておりますし、ぜひ一緒にやりましょう」とポジティブに反応する平野氏が印象的でした。

 

特に今回、自社と顧客、メーカーとの双方向で効果的なデジタルマーケティングの手法は、あらゆる業界でも参考になる内容でした。

 

人口減少が深刻な地方での小売業のビジネス戦略をはじめ、高齢化社会ゆえにビジネスチャンスのある薬局と医療分野での可能性に至るまで、非常に興味深い内容のセミナーとなりました。

 

パイオニアセミナーは年間通じ、定期的に開催しています。今後の詳細は、こちらをチェックしてください。