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【課題創出型ビジネス・デザイン実践プログラム】テーマ提供企業 株式会社にんべん 髙津社長インタビュー

インタビュー 2018/6/22

課題創出型ビジネス・デザイン実践プログラム『みらいブレンディピティ』では、ハーバードデザインスクールやMITメディアラボ等で主流になりつつある、最先端のデザイン手法「Speculative Design(課題創出型デザイン)」の概念を用いて事業創造の方法論を習得する、プロジェクト実践型のプログラムです。

 

3人程度のプロジェクトチームが2か月かけて、実在の企業から提示される事業テーマに対し自ら課題を創出し、事業プランの仮説検証までを行い、テーマ提供企業の経営者から実行承認を勝ち取ることを目指します。

 

2018年7月からの第二期では、株式会社にんべん様よりテーマをご提供いただくことが決定。開講にあたり、代表取締役社長の髙津克幸氏より、取り巻く市場動向や、本プログラムへの期待についてお話ししていただきました。

 

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株式会社にんべん 代表取締役社長 髙津克幸氏

1970年生まれ。東京出身。青山学院大学卒業後、1993年に株式会社髙島屋横浜店入社。96年に髙島屋を退社して株式会社にんべん入社。商品部、営業部、総務部、副社長などを経て、2009年4月に代表取締役社長就任。

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日本人が忘れつつある“だし文化”

にんべんは創業300余年を迎える、東京・日本橋の鰹節専門店です。これまで、時代の流れに沿ってさまざまな商品を開発し提供して参りました。現在のご家庭では、鰹節そのものを削って召し上がっていただく機会は減っています。化学調味料や顆粒のだしが広く普及したことが原因です。弊社が約50年前に開発したフレッシュパックや液体調味料はもちろん、より簡便な商品へと需要はシフトしてきています。そうした加工食品の発達によって、より簡単に味を補うことが可能になりました。また、以前にも増して濃い味が求められるようになってきているのも現状です。

 

日本人全体の食事が欧米化したことの弊害として、濃い味、脂っこい食事を好むようになり、同時に化学調味料に舌が慣れてしまったことが挙げられます。その反動として、繊細な味つけの和食を再評価する動きが活発になってきました。原材料にこだわる本物志向のだし商品や、そうした新興ブランドが活況を呈すようになっているからです。

 

 

従来製品よりも高価格帯で、“自然風”“本物風”を謳っただしパックが、一部の主婦層などで受け入れられていることは確かです。ただし、こうしたこだわりを打ち出している商品のほとんどは、複数の原料を組み合わせ、さらに酵母エキスで旨味を補っており、かつお節だし本来の自然な旨味とは異なる商品でもあるのです。我々もこうした商品を展開していますし、ニーズを否定するわけではありません。あくまでも、価格を含めてお客様にとってバランスが適切な商品を選んでいただければいいと考えています。

総じて言えることは、本物志向のだし製品が支持を伸ばしつつあり、スーパーなどで安価で売られている従来の顆粒だしは微減してきています。そういった環境の中で、鰹節本来の自然な味をいかに継承していくのか、という新しい問題も見えてきました。

 

我々が食育の一環として取り組んでいるのが、働き世代の女性を中心とした、約200人の“にんべん だしアンバサダー”活動です。アンバサダーのうち「講師部」は、お母さん同士のサークルなどを通じて、鰹節本来の美味しさや調理法を知っていただく活動をしています。また、小学校や栄養士さんからのご要望があれば、こちらから出向いて鰹節やだしについての講習会を開く活動も続けています。まずは日本人として、子供の頃に本物のだしの美味しさを知ってもらう機会を作ることが重要だと考えて実施しています。

 

提供テーマと、“だし文化”をグローバルに広める取り組み

今回、『みらいブレンディピティ』で私から提供したいテーマは、「『かつおぶし』をRe-designし、未来と世界に広がるプロダクトやサービスを創造する」というものです。これからの時代にどのようにお客様と関わり、つながっていくのか?どのようなシチュエーションで鰹節が使われていくのか?そうした鰹節の今後のあり方を、皆さんへの課題にしたいと考えています。

 

にんべん自身も、第一期の『みらいブレンディピティ』でテーマとなった日本酒と同様に、“だし文化”を日本から世界へ広める取り組みも始めています。外国人の多くが認識する和食は、味つけが濃くて分かりやすい寿司や天ぷら、ラーメンといった料理が主流です。にんべんとしては、そうではなく、かつお節だしの美味しさを活かした、日本人にとって一般的で健康的な和食の良さを、いかに外国人に伝えるかが肝だと考えています。

 

以前、ニューヨークで、だしをテイスティングしていただくイベントに参加したことがあるのですが、外国の方にだし本来の味わいをご理解いただく壁にぶつかったことがあります。生臭さがなく、スモーキーで香りが良いという点は理解いただけたのですが、「味がしない」「味が薄い」というご意見がほとんどでした。やはり、肉食が主流の西洋文化圏では、はっきりとした味が求められるということが分かりました。一方、アジアに目を向けると、醤油や魚醤など醤(ひしお)を使う文化と、米(こめ)の文化圏があり、そうした国や地域では鰹節が受け入れられやすいのではないかと考えています。

 

現在の日本では当然ながら、1日3食365日、日本食だけで完結しているわけではありません。そもそも我々が和食・日本食と呼んでいるものは、外国からやってきた料理を日本流にアレンジしたものがほとんどです。たとえばトンカツは、ドイツやオーストリアの肉料理“ウィンナーシュニッツェル”や“ミラノ風カツレツ”が由来と言われています。もはや和食なのか洋食なのか分からないほど、日本の食卓に溶け込んでいます。従来の日本食以外で鰹節を使った新しいレシピの開発というのは、ひとつのヒントになるかもしれません。弊社でも、鰹節を使った鶏肉やトマトを使った洋食風のレシピを紹介しています。

 

外食産業進出の一歩とイノベーションの可能性

にんべんとしての新しい試みとしては、2010年10月に、だしのテイスティングバーとして出店した「日本橋だし場(NIHONBASHI DASHI BAR)」のオープンが挙げられます。ここでは、一杯100円(税込)でかつお節だしを販売しています。一方で当時、他社ではおにぎりや味噌汁とともに、だしを無料でテイスティングできるイベントが開催されていたこともあり、開店にあたって、価格設定については社内でも大きな議論となりました。しかし、「日本橋だし場」では、店内で削りたての鰹節から、対面販売で一杯ずつ提供しているということもあり、お代をいただくのにふさわしい商品であろうと考え、一杯100円で販売することを決定しました。

 

写真:日本橋だし場

 

また、和ダイニング「日本橋だし場 はなれ」を出店し、我々が外食産業に足を踏み出したのも、イノベーションのひとつの可能性を求めています。私自身も社長就任前に、だしとは無関係な「はとバスツアー」やJR東日本の「大人の休日倶楽部」で、老舗を巡るツアーを企画提案したこともあります。皆さんに考案いただくものは、新商品だけでなく、サービスでもいいと考えます。老舗を巡るツアーのように、まったくの異業種とのコラボレーションもおもしろそうですし、鰹節の機能に着目した健康食品としてのアプローチにも興味があります。

 

実際に採用できるかどうかは判断させていただきますが、「なんだこれは!」と驚いてしまうような、鰹節の新しいニーズを切り拓く、受講者のみなさんの斬新なアイデアを楽しみにしております。

 

【関連イベント】

◆6/26(火) 髙津社長 特別講演プログラム「老舗企業とイノベーション」

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◆課題創出型ビジネス・デザイン『みらいブレンディピティ』

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