あえて大きなマーケットに挑み続ける ― 第6回パイオニアセミナーを実施

パイオニア・コミュニティ 2018/3/12

 

自分の生き方、働き方の未来について、考えるきっかけを得ていただくための第6回パイオニアセミナー『味わう酒を求めて~逆境経営を乗り越え、辿り着いた世界の獺祭とは~(講師:旭酒造株式会社 会長 桜井 博志 氏)』が、2月19日(月)に実施されました。


家業を継いだその年から、「ロング倒産状態」とまで揶揄されるほどの逆境経営を数十年間耐えてきた桜井氏。いまや、“世界の獺祭”とまで言われるこの地位を、どのようにして作り上げてきたのか。30数年間現場で格闘しながら掴んだ経営の本質について、お話をいただきました。

 

就任直後の逆境…見出した“素人”ならではの挑戦

桜井会長が社長に就任した当時、旭酒造の生産量は最盛期のときよりも3分の1ほどの生産量である700石まで縮小していました。年商も前年比85%ほどで、山口県岩国市の酒蔵でも4番手という圧倒的な負け組だったそうです。

 

社長就任から数年、「10年もたない」と感じたという桜井氏は、経営の舵を大きく切ることに決めます。
しかし、地ビール製造やレストラン経営などの新規事業に乗り出すも失敗、さらには杜氏の離職が重なり本業の酒造業も追い込まれるほどの倒産寸前状態でした。

 

それでも、桜井会長は「杜氏がいなくなったから」こそ、成長を遂げられたと語ります。
ベテランである杜氏がいなくなったことを逆手に取り、酒造りについては素人だった桜井会長自身が製造の現場に積極的に関わり、素人だけでも作れるよう酒造りの製造工程を一から見直したことが、ブレークスルーにつながりました。

 

また、地元市場という小さなマーケットでは負け組だったことから大都市東京の大きなマーケットを意識した戦略へ変更したことで、獺祭の戦略はどんどんと変化をしていきます。積極的に販売してくれない酒屋と付き合い続けることや、売れない商品を安売りやセット販売で売ろうとしてきた負のスパイラルを見直し、商品の価値を高めてブランド化することで差別化を図ることにしました。販売経路も、その想いに賛同して取り扱ってくれる酒屋だけに販売するなどの変更をおこないます。そして、「大和魂」や「まごころ」といった精神論から脱却し、「いい原材料が旨い酒を作る」という理念のもと、品質の高い山田錦だけを使って生産をすることなど、具体的・抜本的な改革に取り組んできたのです。

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お客さまの「おいしい」を突き詰めて

品質の高い山田錦は生産が難しく、米の生産量がおのずと獺祭の生産上限を決めてしまうことになります。現在、その7割が兵庫県で生産されていることからも、生産が間に合わなくなることは必至です。そこで、桜井氏は新潟、栃木、茨城の生産者に依頼をして山田錦の栽培に挑戦してもらい、山口県内の2件の契約農家でも実験的に生産を行なっています。
もちろん、地元以外の米で山口の酒を作ることは、周りからの反発が大きかったと言います。それでも、それもお客さまの「おいしい」を追求することにこだわり続け、信念を貫きました。

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作り続けられることが、すべてでない

<対話セッション>

そんなこだわりをもってつくられた、『獺祭』純米大吟醸50・三割九分・二割三分の3種が、会場の受講者たちに振る舞われました。

 

 

利き酒を行いながらの対話セッションでは、受講者から、日本の市場や売り上げが落ち込む中、酒蔵をどう盛り上げるべきと考えるか、といった質問がありました。

 

「日本酒市場は淘汰がなかった」と桜井氏。売れなくなった酒蔵も、「作り続けられる環境のせいで、市場全体までも落ち込んでしまった」と見解を述べます。

 

いまや世界に市場を広げ、海外で売り上げる日本酒の10%超を占める『獺祭』も、逆境をプラスに捉えて淘汰されないための工夫や、絶え間ない地道な経営努力を行ってきた結果なのです。
売れなくても作り続けられるという、競争のない業界は業界自体が生き残れず、ワイン市場などの他の酒市場に飲み込まれてしまう可能性がある、と桜井氏は警鐘を鳴らします。

 

「大和魂では酒はうまくならない」という桜井氏の言葉は一見ただ合理的・機械的な印象をもたせましたが、その言葉の奥にこそ、書籍や記事だけでは伝わってこなかった「桜井会長の強い信念と志を感じた」と、受講者は振り返りました。
「大きなマーケット」への挑戦は、今や日本全国から、2017年のフランス・パリ出店や今後のアメリカニューヨーク進出と、止まることなく続いています。

 

 

【次回予告】夢持ち続け日々精進。ジャパネットたかた創業者が登場

 

次回のパイオニアセミナーは、3月13日(火)18:30よりジャパネットたかた創業者の髙田 明さんにご登壇いただく『夢持ち続け日々精進~今を生きる、思いを伝える~』を実施します。長崎のカメラ店から誰もが知る大手通信販売会社に上り詰めるまでのご自身の経験を振り返り、そこから得た視点や、現在の立場から伝えたいことを語ります。皆様のご受講をお待ちしております。

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