【予告編】逆境をバネに!龍角散・ヒットメーカーの“発想の転換”

インタビュー 2018/11/9

2018年11月29日に開催するパイオニアセミナーでは、株式会社龍角散執行役員 開発本部長 福居篤子氏に、「消費者目線で開発した『服薬補助ゼリー』〜逆境を好機に変える〜」をテーマにご登壇いただきます。

 

福居氏は、薬剤師から製薬メーカーの龍角散に転職。持ち前の行動力と現場で培った消費者目線を発揮して、世界初の『服薬補助ゼリー』のヒットメーカーとなったものの、古い体質の組織との軋轢が生じた結果、左遷の憂き目に遭うことに。

 

セミナーに先駆けて、福居氏の素顔に迫り、逆境にめげず、前向きに仕事をするヒントの一部についてお話しいただきました。福居氏はどのようなスタンスで仕事に取り組まれておられるのでしょうか。

 

 

(プロフィール)

株式会社龍角散執行役員 開発本部長 薬剤師 薬学博士

福居篤子 氏

 

1988年に第一薬科大学薬学部薬剤学科卒業。福岡徳洲会病院にて臨床薬剤師として勤務。1991年に龍角散に転職。同社研究所で薬品分析や製剤などに従事し、「嚥下補助ゼリー」「龍角散ダイレクト」「龍角散ののどすっきり飴」の開発を手がける。2008年に名城大学大学院で博士(薬学)を取得。

2010年より現職。日本薬剤学会「旭化成製剤学奨励賞」、公益社団法人発明協会「発明奨励賞」、「A’Design Award Silver賞」など数多くの受賞実績がある。

 

なぜこんな飲みにくい薬を?― 素朴な疑問から製薬メーカーへ

 

―― 臨床薬剤師としてのキャリアがバックグラウンドにある福居さんですが、龍角散入社当初は、消費者目線から作り手側に立ち位置が変わり、ギャップを感じることはありませんでしたか?

 

福居氏:病院での勤務から製薬メーカーに転職しようと思ったきっかけは、普段から薬剤師として「なぜこんな飲みにくい薬を作っているの?」と疑問に思っていたことなのです。「それならば作り手側に回ってみよう」と思い龍角散に入社したのですが、すぐにその理由がよくわかりました。行政のガイドラインに則って、安全性や有効性を優先しなければならない業界で、飲みやすさや味は二の次に。ジェネリック医薬品を手がけていましたが、特許が切れてから商品をリリースするまでの効率やスピードの方が重視されているという現実にがっかりしました。

 

―― 入社してから左遷されるまで、どんなことが古参の社員との軋轢を生んだのでしょうか?

 

福居氏:歴史と伝統がある会社だということと、長年培われてきた社風が大きく関係していたと思います。入社後すぐに感じたのは、社員みんなが“人にやさしい”ということでした。たとえば、失敗してもみんなが庇ってくれる体制ができている、といったイメージです。別の言い方をすれば、人にやさしいということは、自分にも甘いということなので、発展や成長をしにくい環境だと感じました。そんな老舗企業に、「あれもやりたい、これもやりたい」という元気いっぱいでチャレンジ精神旺盛な私が入ったことで、「面倒くさい」と思われたようです。

それと、製薬業界の特徴として圧倒的に女性が少なく、学会に行けばほとんど男性しかいないということもありました。そんな業界ならではの暗黙の了解を突き破っていたから、ということも軋轢が生まれた原因だったかもしれません。

 

 

裏表なく、失敗を“共有すること”が次につながる

 

―― これまでいなかった、型破りな社員に保守的な方々が戸惑ったというわけですね。

 

福居氏:はい。当時、ほかの男性社員と同じことをしてもまったく評価されませんでした。同じ仕事をしている男性社員は「すごいね」と褒められていて、「私だって同じことをやっているのに」と思うようなこともたくさんありました(笑) がっかりしましたが、だからこそ認められるために100倍働いてやろうと奮起しました。

 

―― 頑張れば頑張るほど“出る杭”になるジレンマがありますね。今だから言える、周りを味方につけるために意識されていたことはありますか?

 

福居氏:当時はピュアすぎて、意図的に誰かを味方につけようという考えはありませんでした。むしろ、真っ向からぶつかってはね返されていました。いろいろと経験を積んで、自分を押し出すよりも、女性だからこそ得している部分を上手に利用した方がやりやすいと考えるようになりました。

 

かつては、社内に「失敗するとその人のミスになるから、みんなで隠そう」という雰囲気がありましたが、私の場合、隠す前に「失敗しちゃった!」と声に出してしまっていました(笑) それが味方を増やすことや、社内のコミュニケーションを円滑にすることにつながっていたと思います。何よりも裏表を作らずにみんなで情報を共有し、次の失敗をなくすことが重要だと考えています。

 

―― 日本企業においては、なぜか失敗を隠したがる傾向にありますよね。がっかりするようなことが多々あった後に、社長室に駆け込み、どのようなことを訴えたのですか?

 

福居氏:もともと勤めていた病院は、どちらかといえば男女の隔たりがない職場だったので、保守的で男性中心の組織に入って、男性よりも100倍頑張らなければ認められないことを痛感したわけです。なにを提案しても否定されるようなことが続き、ずっとこの会社にいても評価されないと思ったので、「辞めます」という話をしに行きました。そうしましたら、当時係長職だった現社長の藤井から、辞める理由を聞かれた上で、「私はこれから社長になるから、社内の改革を一緒にがんばってみない?」と声をかけられたのです。辞めるのはその改革が終わってからでも遅くはないかと考えなおし、会社に残ることにしました。

 

消費者代表としてモノ作りを考える重要性

 

―― 商品開発についてもお聞かせください。福居さんが開発された『服薬補助ゼリー』のアイデアは薬剤師としての経験から生み出されたものだと思いますが、落としどころが固定化されがちな商品開発を打破するために、今も気をつけていることはありますか?

 

福居氏:消費者の代表として、「私が欲しくないものは、みんなも欲しくないムダなもの」だといつも考えています。また、製薬メーカーの場合、消費者はもちろん、嚥下障害などで切実に困っている患者さんの目線も重要です。医師も含めて、医療従事者は患者が何を欲しているのか、意外と気がつかないことが多いのです。その2点に重きを置いて、使い勝手を考慮しながらモノ作りを考えています。

 

この部分については、セミナー当日でももっと詳しくお話したいと思っています。

 

―― 企画会議で『服薬補助ゼリー』の試作を何度提案しても評価されず、それでも諦めずに提案を続けたと伺いました。その原動力はどこにありましたか?

 

福居氏:困った患者さんを実際に見て、切実に「必要だ」と感じていたことです。その想いを、毎回会議のたびにぶつけ、評価されなくても「今回は背景の説明が不十分だったな」などと改善しながら提案を続けていきました。最終的には社長の藤井が、「そこまで言うなら現場を見てみよう」と言って、介護現場に一緒に行ってくれたので、その有用性について理解を得ることができました。

 

気づきを自分の成長に変える、発想の転換

 

―― その後、子ども向けでいちご味の服薬補助ゼリー『おくすり飲めたね』の開発が大ヒットにつながりましたが、直後に社内で左遷されるというショッキングな出来事がありました。それでも負けずに働き続けた想いを聞かせてください。

 

福居氏:最初の1カ月はさすがに戸惑いました。ただ、今だから言えるのは、ムダなことは何もないということです。そうなってしまった経緯として、自分にも悪い部分があると考え、その原因がどこにあったのかを知りたいと思いました。その期間に、自分を強くするためには何が必要かを考えることにしたのです。

 

―― 左遷されて気づいたことはありましたか?

 

福居氏:そのとき初めて、周りを冷静に見えるようになりました。前から薄々気づいてはいたのですが、「あれ、私、浮いているかも」ということがはっきりわかってきたのです(笑) 同時期に同業他社から転職のお声がけもいただきましたが、会社を変えてもまた同じことをくり返すだけだと思い、まずは自分でその原因を見極めようと考えました。原因を探るにつれて私に足りないことにたくさん気づき、それを補えば、私自身はもちろん会社のためにもなると思ったのです。その気づきから、空いた時間を活用して大学院で学ぶことも始めました。

 

―― 泣きながら辞めることは誰にでもできますが、福居さんの場合はとても前向きな発想の転換ですね。福居さんならではの、くじけそうなときの発想の転換のコツはありますか?

 

福居氏:自分から沸き起こる、“怒り”や“悲しみ”といった感情をごまかさないことが重要です。人には見せませんが、ちょうど左遷された当時は車通勤だったので、車の中で思い切り泣いたり叫んだりしていました。ちょっと怖い人ですよね(笑) それから、左遷されたとき、「あと2年間だけ頑張ってみよう」と自分に期限を設定したことで、気持ちがだいぶ楽になりました。

 

―― 2010年にはこれまでの頑張りが認められ、龍角散の執行役員に就任されました。今後の社内でのご自身の使命をどのように捉えていますか?

 

福居氏:“福居二世”を作るというよりも、率先して楽しく会社をまわしていける人たちを育てたいと考えています。だから、今はできるだけ部下に仕事を任せるようにしています。みんな私よりも仕事ができますから(笑) 私自身、未だにほかの部署の人とうまくコミュニケーションできていない部分はありますが、その点も改善しながらチームとしてサポートしていけたらと考えています。

 

―― 最後に、今回の福居さんのセミナーには、古い体質の組織で孤軍奮闘されている方にもたくさんお越しいただけると思います。そうした社会の軋轢と戦う方々へのメッセージをお願いします。

 

福居氏:講演で、薬学部の学生の前でお話しする機会も多いのですが、くじけなくてもいいところで諦めてしまう人が多いと感じています。特に薬学部は6年制に変わり、キャリアの選択肢が病院や調剤薬局に集中しているのが現状です。視野を少し広げてみないと、本当に自分が輝ける場所がわからなくなりますし、実際に働いてみても楽しくないのでは、と心配になります。男女に関わらず、みなが対等に働ける職場が理想ですし、人とぶつかったときは引くのが吉ではありますが、意見を言い合うことも時には必要です。さらに、それを引きずらないことも大切だと思っています。

 

私の場合、社内外を問わず仕事で相手と接するときには誠心誠意でぶつかり、そこで全部自分を出し切ることをモットーとしています。それによって、相手がより深く理解してくれることが多いです。さらにその場だけでなく次にもその関係がつながり、人間関係がとても充実してきます。すると困ったときにすぐに助け合える仲間ができるはずです。仕事をしながらも、社内にこだわらず社外の広い世界にも目を向けると、得られる収穫も大きいと思います。

 

 

セミナー当日は、本日触れることができなかった、消費者目線かつグローバル視点での商品開発をはじめ、逆境を好機に変えるヒント、パワフルに生きるコツについてより詳しくお話しいただきますので、どうぞご期待ください。

 

 

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11月29日(木)18:30〜20:30に開催する、「消費者目線で開発した『服薬補助ゼリー』〜逆境を好機に変える〜」の詳細とお申し込みはこちらまで。