2019年4月23日に開催したパイオニアセミナーでは、SHOWROOM株式会社代表取締役社長 前田裕二氏をお招きしました。
「メモで人生を拓く-自らの人生のコンパスをつくる-」をテーマに、0→1の事業を創出するノウハウをはじめ、独自のメモ術など多岐に渡りお話いただきました。満席となった当日のセミナーから、一部抜粋してご紹介します。
(プロフィール)
SHOWROOM株式会社代表取締役社長 前田裕二氏
1987年東京生まれ。2010年に早稲田大学政治経済学部を卒業後、外資系投資銀行に入社。翌年から米・ニューヨークで北米の機関投資家を対象とするエクイティセールスに従事。株式市場において数千億~数兆円規模の資金を運用するファンドにアドバイザリーを行う。その後、0→1の価値創出を志向して起業し、2013年株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)に入社。同年、仮想ライブ空間「SHOWROOM」を立ち上げる。2015年に会社分割によりSHOWROOM株式会社を設立し、ソニー・ミュージックエンタテインメントからの出資を受ける。著書『人生の勝算』や『メモの魔力』がベストセラーに。
(cap)満席となったWASEDA NEO (早稲田大学 日本橋キャンパス)の会場。
前半は、早稲田大学社会人教育事業室長の守口剛教授がモデレーターを務め、対談形式で前田氏がこれまでどのように事業を構想してきたかについて探りました。
「SHOWROOM」には、誰かを応援するためにお金を使える「ギフティング」という仕組みがある。そのビジネスモデルの原点は、かつて前田氏が路上ライブをして投げ銭をもらった体験からきているといいます。独自のビジネスモデルについて、前田氏は次のように語りました。
「人は、芸のクオリティそのものといった外面的なものだけではなく、情やコミュニケーションといった内面的なものにも価値を感じ、その対価としてお金を支払うことがあるということを、路上ライブを通じて体感しました。こうした“誰かのために”という、利他的な気持ちに価値を置くサービスに着目したのは、“利己から利他へ”という人々の行動原理における大きなパラダイムシフトを予測したからです。豊かになったこれからの日本では、自分の為以上に、自分以外の誰かのために行動したときに得られる効用がより大きくなり、今まで以上に利他的な行動に価値が置かれる時代になる。例えば、頑張る誰かを応援すること自体が、文化になり、一つの市場を形成する。たとえ自分自身が大きな夢を持てなくとも、ほかの誰かの夢をサポートすることで、自分も”夢の中”に入って”夢中”になるという、新しい価値交換の世界が今後広がっていく。」
(cap)SHOWROOM株式会社 代表取締役社長 前田裕二氏。
SHOWROOMのギフティングと呼ばれる課金システムでは、「利他的な行動が画面上で可視化されている」ことがポイントです。「自分でどれだけ課金するかを決められる仕組みは画期的でおもしろい」と指摘する守口教授に対し、前田氏は、着想の原点が、文化人類学や進化生物学にあること、リチャード・ドーキンスの『利己的な遺伝子』に影響を受けたバックグラウンドについて語りました。
(cap)SHOWROOMサイト参考イメージ。人気の演者は多くのオーディエンスから支援され、それがギフティングやコメントという形で可視化される。
「ある種SF的な仮説ではありますが、遺伝子にとって人間という個体は、より遠くの未来に行こうと思ったときの単なる”乗り物”でしかなく、その遺伝子の利己性に基づいて、人間という個体に利他的な行動をさせるという考え方があります。たとえば、井戸に落ちそうになった子どもを自分のリスクを抜きにして無意識に助ける人がいます。それはなぜか。遺伝子レベルで考えれば、そうして利他的な行動を起こすことによって個体が評価を集めたり、より良いパートナーを見つけて優秀な遺伝子を未来に残せる。他者の目があるからこそ、人はそうした行動を起こします。今は、人助けをしたことが死んでから明らかになるという時代ではありません。特にネットの世界では、利他的な行動は順次、可視化されていきます。ただし、国民性にもよりますが、利他的な行動は自ら主張しにくいものです。それを運営側が可視化してあげることで、世の中を利他的な行動で溢れさせる。それがインターネットの一つの役目だと思っています」
さらに、SHOWROOMを率いるリーダーとして、行動を起こすときに欠かせない“仮説”の立て方について紹介する前田氏。
「「考える」「行動する」の二軸があるとして、僕の場合、行動する前に、かならず、たった3秒でもいいから、何らか仮説を立てて動きます。そうしないと、結果が成功でも失敗でも、次のアクションにおける再現性のコントロールができません。」
これに対し、リサーチクエスチョン(研究の問い)があって、そのもとで仮説を立てて、データ収集・調査・実験をして、その仮説を検証するステップが「研究の世界と似ている」と、守口教授。前田氏がどのように仮説を立てるのかについて、さらに追究しました。
(cap)モデレーターを務めたのは、早稲田大学商学学術院教授で社会人教育事業室長の守口剛教授(写真左)。
「事前に問いを立てて、それに紐づいた行動を起こし、うまく行かなければまた問いに戻ってチューニングし、行動することを繰り返します。たとえば、売上が伸び悩む洋服屋があったとしたら、路面店の売上を伸ばすためには、仮説として単価を上げて、売上を最大化する努力をしてみる。それでも売上が伸びなければ、トップスを買うお客さんにインナーをすすめるオペレーションをしてみる。それでも売上が伸びない場合、そもそも路面店ではなくもはやECで服を買ってもらうには?と、問いそのものを変えて、ECの売上を上げるべきだということに気づくこともあります。このように、今解こうとしているそもそもの問いがズレていることも多いのがビジネスの世界です。問いと仮説のチューニングをいかに高速で行うかが極めて重要だと思います」
前田氏の答えを受けて、「実は一番難しいのは、問いを立てること」であると指摘する守口教授。行き詰まったときの「問い」のチューニング法についても伺いました。
「問いのチューニングは、結局、行動の物量が全て、です。最善と思える問いを解くために、最善と思える仮説を立て、それに沿ってトライ&エラーを繰り返すことで、問いのズレに気づくことができます。ただ、僕1人では検証できる問いや仮説の数にも限界があるので、問いの精緻化は会社の仲間で一丸となって行います。その中でも主にまず問いを考えるのは経営陣や現場のリーダーで、それを受けて行動に移すのがメンバー。ただ、いちメンバーだからといって行動だけしていれば良いかというと違う。常に自分の頭で行動に仮説、そしてその先にある解くべき問いを紐付ける癖をつけてもらっているので、問いや仮説の構築が上手くなってくるメンバーが現れます。その時に、彼、彼女をリーダーとして引き上げていきます。」
“メモ魔”として知られる前田氏には、「1.まずはメモする」「2.右側に気づいたことを書く」という独自のシンプルなメモ術があって、セミナー後半ではそのノウハウについて伺いました。「仕事で成長するには、インプットとアウトプットの量を増やすこと」であり、そのためにメモは有効だと語る前田氏。前田流・メモ術の効用について、次のように語りました。
<前田氏が語るメモ術の効用>
①知的生産性の向上
②情報獲得伝達率の向上
③傾聴能力の向上
④構造化能力の向上
⑤言語化能力の向上
「メモを癖づけると、一見意味がないように見える身近な事柄からも何らか着想や解釈を得て、沢山のアイデアを思いつくことができる。また、人の話を聞くときにメモをとると、話をする相手の本気を引き出す効果もあると思います。相手側のアウトプットのパフォーマンスが上がることで、結果、聞く側のインプットの量と質が高まる、ということです。」
最後に、受講者とともに、前田氏のベストセラー著書『メモの魔力』式ワークショップを実施しました。全員に配布されたのは、他人の「人生の軸」が書かれた用紙。この言葉の中から自分がピンとくるものに丸をつけて、最終的にそれらをグループ分けし、それぞれに抽象化したラベルを貼ります。すると不思議なことに、自分にとって重要であるもの、関心のあるものが浮上してきます。
さらにグループになり、たとえばラベリングされたものが「楽しさ」だとしたら、それを重要だと考えるに至った経緯や原体験、理由などについて、参加者同士で具体的に話し合いました。話した内容について数名が代表として発表し、前田氏から会場全体へ向けてフィードバックを行いました。
ワークショップを通じ、自分にとって記憶に残るワード、価値観について人と共有・共感することができ、自分の「人生の軸」をみつけるためのヒントが得られた時間となりました
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テレビのコメンテーターとしても活躍する若手の実業家である前田氏の講演とあって、若い世代の受講生も目立った今回のパイオニアセミナー。質問タイムでは、多くの人が挙手し、「新ビジネスをゼロから立ち上げるとき、みんなを動かしていくために意識していることは?」「金融業界からITに転職した理由は?」といった数多くの質問が寄せられ、会場は熱を帯びたまま閉会となりました。
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