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【レポート】シンポジウム「日本発のライフ・シフトを創造する」これからのキャリア形成における「学び」の意味とは?<前編>

イベント 2018/6/5

以前は「人生80年」と言われていましたが、2016年にリンダ・グラットン著『LIFE SHIFT(ライフ・シフト)』が日本で発売されブームを起こして以降、「人生100年時代」が到来したことの認識が一気に広がりました。

単に「人生が長くなった」ことに留まらず、テクノロジーの進化をはじめ、働き方改革、家族観の変化など、私たちを取り巻く状況が大きく変わっていくまっただ中にいると言えます。私たちは、学ぶことや、働くことをどのように考えて向き合い、人生を歩んでいけばよいのでしょうか。

 

2018年4月25日、早稲田大学社会人教育シンポジウム「日本発のライフ・シフトを創造する」が開催され、現在の日本で「働き方」についての最新の知見を持つといえる、経済産業省大臣官房参事官(経済産業政策局担当)兼産業人材政策室長 伊藤禎則氏、ライフシフト・ジャパン株式会社代表取締役 安藤哲也氏、ランスタッド株式会社チーフ・ピープル・オフィサー/取締役最高人材活用責任者 志水静香氏の3名をお迎えし、WASEDA NEOプログラム・プロデューサー 酒井 章のモデレートにより、来場された100名以上の方々がこれからの働き方や学び方、生き方についての真剣な議論を行いました。

 

同時に、本シンポジウムでは、早稲田大学が全学を挙げてリカレント教育に取り組む姿勢を広く伝える宣言の場にもなりました。

 

このシンポジウムで提起されたテーマやヒントを、3回に分けてお伝えしていきます。まず前編では、早稲田大学総長 鎌田薫の挨拶と伊藤禎則氏の基調講演から。伊藤氏からは、今、直面している「人生100年時代」において、何が変わろうとしていて、どう変わっていくべきなのかをお話ししていただきました。

 

早稲田大学では創立間もない頃から「社会人教育」の重要性を意識

開会に先立ち、早稲田大学総長 鎌田薫より、なぜ大学が社会人教育に取り組むのか、早稲田大学の原点とともに大学が果たすべき役割についてお話しさせていただきました。

 

早稲田大学は創立から4年後の1886年に、全国の勤労青年、勤労学生、女性など幅広い市民に向けた校外教育制度を開始。これは、今でいう通信教育や社会人教育にあたるものです。約130年の間に様々な変遷があり、現在では年間約5万人の社会人に学んでいただいています。

 

「人生100年時代」が到来する中、働き方改革やリカレント教育は今後さらに強化されていくべきものである一方で、社会構造が急速に変化し、学びの目的や手法も多様化していることを踏まえ、「早稲田大学はこれまでの伝統と実績を礎として、マルチパーパス、マルチステージに対応した新たな学びのシステムを構築していく」と宣言いたしました。

 

基調講演『「人生100年時代/AI時代」におけるこれからの働き方、学び方、生き方』

続いて、基調講演として、経済産業省大臣官房参事官(経済産業政策局担当)兼産業人材政策室長 伊藤禎則氏より『「人生100年時代/AI時代」におけるこれからの働き方、学び方、生き方』というテーマでお話をいただきました。以下は、伊藤氏の講演を一部編集してお伝えします。

 

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1994年東京大学法学部を卒業し、通産省に入省。コロンビア大学ロースクール修士、米国NY州弁護士資格取得。大臣秘書官などを経て、2015年より現職。経産省の人材政策の責任者として「働き方改革実行計画」の策定に関わる。副業・兼業、フリーランス等「多様な働き方」の環境整備、AIによる雇用の影響把握、「経営リーダー育成指針」策定等も手がける。

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「日本発のライフ・シフト」を妨げる最大の要因は「長時間労働」にほかならない

今日は「人生100年時代」に、なぜ今、「働き方」、「学び方」が変わろうとしているのか?そして、なぜ今、それをこの場所で考えなければならないのか?ということについてお話したいと思います。

 

まず、現状認識として、私たちは2つの大きな構造変化に直面しています。

ひとつは人生100年時代と人口減少という、「人口動態の変化」。もうひとつは、AIに象徴される第4次産業革命による「産業構造と技術の変化」。この2つです。

「働き方改革」という言葉を使いますが、そもそも何を改革するのか?

変える・変わる・改革するのではなく、むしろ「変わろうとしている」、「変わらざるを得ない」ということだと私は考えます。

 

旧来の日本型雇用システムが変わろうとしているのは、みなさんご存知の通りです。経営学者の先生方と議論していますと、日本型雇用システムの最大の特徴は、「終身雇用」ではなく「職務の無限定性」だという方が多い。「職務の無限定性」というのは、上司から“これをやっておいて”と言われた仕事が自分の仕事になるということです。もちろんおおまかな役割分担はありますが、相当程度仕事の内容が可変的です。端的に言うと、仕事があって、そこに必要な人数が割り当てられているというよりも、そもそも人がいて、仕事がアサインされている。典型的にいえば、この状況だと「できる人」ほど仕事が増えます。

 

この「職務の無限定性」にもいい面があります。それはいろいろな仕事を経験できること。「これは私の仕事ではない」と押し付けあうのではなく、どんどんといろいろな仕事を経験する。これが結果として「チームで仕事をする」というひとつの日本的なシステムにもつながるのです。ただ、「職務の無限定性」と「チームで仕事をする」の組み合わせの悪いところは、どうしても労働時間が長くなること。どの国際統計をみても、日本は労働時間が長いのは明らかです。

 

歴史的に見て、日本のさまざまな制度が「男性が正社員で稼ぎ手、女性が専業主婦、子どもが1人か2人」という、「旧来の世帯像」を前提として組み立てられている。このことと、労働時間が長いことは密接に関係しています。

 

他方で、ご存知の通り、「旧来の世帯像」とは全く違う状況がこの20年で起きている。女性の社会進出が進み、昨今は介護があります。私の周りでも介護を理由に離職せざるを得ない方がいます。

そんな中では「残業当たり前」、「土日出勤当たり前」、「転勤当たり前」。こういう仕事のスタイルは「無限定正社員」とも言われますが、サスティナブルではなくなります。日本のライフ・シフトを妨げる最大の要因が不適切な長時間労働。「長時間労働の改善」が「働き方改革」の一丁目一番地であることは間違いないのです。

 

「OJTを補完する社会人教育システム」が求められている

しかし、話はそこで終わりません。

旧来の日本型雇用システムであった、終身雇用や一括採用にもいい面はあります。それは若者の失業率が低いこと。しかし、「メンバーシップ型雇用システム」と言われるように、メンバーに入れた方は良いのですが、入れなかった方はどうなるのか。典型的には非正規雇用の方。今、日本の労働市場の4割が非正規雇用です。そして、日本の特徴として正規と非正規の収入格差が非常に大きいです。この格差の問題をどうするのか。

 

そして、非正規/正規の問題だけではありません。正規間でも、例えば生産性の低い分野から、生産性の高い分野への労働移動は日本ではなかなか起きません。そこには、「たこつぼ型」「縦割り型」の労働市場があります。

 

また、3つ目の論点でも同じことが言えます。日本で教育といえば「学校教育」であり、社会人になってからの教育は99.9%OJT。その大きな方向性は、これからも変わらないかもしれません。でも、AI、IoT時代になり、どんどんスキルの賞味期限が早くなっている中では、自社にすべてを閉じた形で、100%のスキルを得るのは不可能です。つまり、OJTを補完するような教育システムが必要なのです。しかし、現在は残念ながら「大学」がその機能を果たしていない。そんな中で、この「WASEDA NEO」のような場所に対する期待は大変大きいわけです。

 

AIを活用して付加価値を生む人間になるためにも「教育」が重要に

先ほど挙げた2つの変化のうち、人手不足は言うまでもありません。2060年には、15歳~65歳の生産年齢人口が今の半分になります。生産年齢人口の減少だけに着目すると、14世紀のヨーロッパでペストが流行した際の人口減少ペースに匹敵するほどだと言う説もあります。ただ、その14世紀のヨーロッパで何が起きたかというと、生産性がものすごく上がったのです。そういう意味では、生産性を高めてくれるであろうひとつの切り札として、もうひとつの構造変化が挙げられます。それが第4次産業革命です。

 

私たち経産省では、2年に渡って「第4次産業革命の光と影」について研究してまいりました。IoT、センサーでデータを集めて、ビッグデータ化して、AIで処理をし、それをロボットがアプリケーションする。それを第4次産業革命と呼んでいます。

 

私たちの産業構造審議会でパートナーになっていただいている、人工知能の第一人者である東京大学の松尾豊先生が「カンブリア爆発」についての話をされています。三葉虫は歴史上はじめて目を持った生き物だと言われていますが、三葉虫の誕生をきっかけに何が起きたか。目を持つ生き物が出現して、非常に効率的にエサをとれるようになった。するとエサとしてとられる側も殻を持ち、自らも目を持つようになった。「目の誕生」をきっかけに、種が多様化したということなのです。今地球上に生存している生物のほとんどの原型は、このカンブリア紀に誕生したと言われています。松尾先生によれば、現在は「AIのカンブリア爆発」だと。あらゆる分野で、あらゆる企業で、あらゆる職種でAIデータが進化をしているのです。

 

日本の特徴として、会社の名前はほとんど変わりません。10年前と比べて、大学生の人気就職企業をみると、あまり変わっていないのがわかります。ただ、みなさまの実感としても、この5年くらいで、会社の名前は変わっていないけれど、やっているビジネスの内容や方法が相当変わってきているのを感じているのではないでしょうか。典型的なのが銀行です。これからの5年間は、その変化がさらに加速していくでしょう。

 

そうすると、必ず出てくる議論が「AIが人間の仕事を奪うか?」。これも我々の「新産業構造ビジョン」を見ていただけると出てくるのですが、答えはシンプルで、「なくなる仕事もあれば、新たに生まれる仕事もある」ということです。重要なのは「AI対人間」という構造で語られがちですが、そうではなくて、「AIを活用できて付加価値をあげることができる人間」と「残念ながらそれが難しい人間」と「人間対人間」の構図になるのです。

 

この議論は日本だけでなく、全世界で行われています。インダストリー4.0でこぼれ落ちる中間層のリトレーニングをどうするか?リエデュケーションをどうするか?これが全世界的な課題になっている。救いは、AIを活用して付加価値をあげるためのカギは「教育」であること。従って、これからの「働き方改革」の重要なテーマとして、「教育」が浮上してきているということなのです。

 

働く人ひとりひとりのエンゲージメントをどう高めるかが「働き方改革」第二章

率直に申し上げて「働き方改革」第1ステージでは、さまざまな社会的要因によって「労働時間」に焦点があたりました。これは避けて通れない論点です。1947年に成立した労働基準法の下で、日本では労使が合意すれば青天井で残業時間を設定することが可能でした。これが変わります。今まさに国会で議論をしていただいているところですが、労働基準法が改正されると、罰則つきの上限規制が導入される点が挙げられます。

 

でも、労働時間を減らすこと自体がボウリングのストライクではありません。本来「どう生産性を高めるか」、「働く人ひとりひとりの喜び、エンゲージメントをどう高めていくか」。これが今求められている「働き方改革」の第2ステージです。

 

1点目には、「何時間働いたのか」、「何年会社にいるのか」ということではなく、「成果」、スキルにもっとフォーカスをする。2点目には、働く人のニーズは多様化しています。みなさんが思っている以上に多様化しています。人生100年時代に20代~30代の働き方と、70代~80代の働き方は当然違うわけです。それから、テレワーク、フリーランス、兼業、副業、限定正社員、と働き方も多様化していく。そして、人事部はそれに正面から向き合う必要がある。

 

たとえば、兼業、副業。給料が安くなったからそれを補填するのか、という話もありましたが、そうではない。今、数も増えて注目されているのは、本業はしっかりやりながら、本業以外でも自分の自己実現の場として違うことをやってみたいということ。ただ、今の多くの日本企業では、就業規則で副業を禁止しています。それは、国がモデル就業規則で制限していたから。ほとんどの企業でこれが踏襲されています。これが2018年2月に改訂されました。文言としては本当にちょっとした違いですが、原則と例外が逆転しました。会社と働く人の関係が相対化されてきている。

 

そういう中で、最も大事なのは3点目。やはり「学ぶ」ということ。

鎌田総長にもご出席いただいて、「人生100年時代構想会議」を官邸において開催しております。政府において「リカレント教育」、「社会人教育」というものを中心的テーマにして、まさに検討しているところです。

 

『LIFE SHIFT』の著者、リンダ・グラットン教授にも、イギリスから委員として参画していただいています。グラットン教授の初回のプレゼンテーションは「3ステージライフ」。日本で言えば、小学校・中学校・高校・大学で16年間教育を受けて、ひとつの会社に勤めあげて、あとは年金生活。こういうステージは「人生100年時代」には、サスティナブルではなくなってきている。「働く」と「学ぶ」がどんどんと一体化してきている。働き方も、ひとつの会社に勤めあげるのではなくて、場合によっては複数の会社、組織に属する。いろんな働き方がこれからどんどん出てくる。そんな話をされていました。

 

よくグラットン教授がおっしゃる例として、2007年以降、日本で生まれた子の50%が107才まで生きるということ。昨年、医学博士の日野原重明先生が105歳で亡くなられましたが、最後まで現役でいらした。「人生100年時代」は我々みんなが日野原先生になるということですね。最後まで現役で「働く」と「学ぶ」をともに行う。

 

社会人の学びは「実践」と「学び続ける力」が必要

では、日本の「学び」はどうなっているのか?大学の現状は、25歳以上の学士が2.5%。30歳以上の修士3.2%と非常に少ない。OECDのほかの諸国と比べても桁がひとつ違います。これが現状です。残念ながら社会人の学びの場として、今の日本ではまだ十分にその役割を果たしていません。それを変えていきたい。

 

経産省でも「人材力研究会」で「人生100年時代の大人の学び」というテーマで検討してまいりました。何を学ぶか?どう学ぶか?学んだことをどこで使うのか?

ゲストもどんどん招いて30人くらいでいろんな議論を深めた結果、ひとつ言えるのは、“大人の学び”と学校教育との最大の違いは「実践」ですね。

 

大人なので、実践することがとても大事。それは出向であったり、副業であったり、大人のインターン。あるいはリカレント教育です。むしろ大人だからこそ「学び続ける力」、「learn how to learn」という言葉を使いますが、これをいかに身に着けていくか。逆に言うと、子どものときよりも実はその部分がすり減ってしまっているのかもしれない。それをどう補っていくのか。それは、大学改革であり、職業訓練改革であり、そして、さまざまな形でその機会をどう作っていくのかということです。

 

大人の学びには「OS」と「アプリ」という2つのレイヤーがある

人材力研究会で研究をしてきて、今われわれが考えているのは、大人の学びにはふたつのレイヤーがあるということ。ひとつは、コンピュータで言うと「OS」にあたるもの。もうひとつは、「アプリ」にあたるもの。

 

例えば、アプリなら、まずはデジタルスキルですね。AI、データ。これはITベンダーで仕事をされている方だけでなく、ここにいるすべての方が、これから何かしらの形でデータを仕事でどう使うかということに向き合うことになります。ちょっとした統計であったり、データ解析であったりするわけですけれど。そういったことを、どう身に着けるか。

 

これは厚労省と私どもで連携をしまして、新しい制度を創設しました。職業訓練という制度があります。これはもともと伝統的には失業者対策が中心でした。失業するとハローワークに登録をして、いろいろな教育訓練を受けられますが、今必要なのは、失業者対策ではなくて在職者対応です。在職者に、IT企業でない方も含めて、デジタルスキルを身に着けるための講座が必要だと。幸い受講料の7割が国から出ます。これが今年の4月からスタートしました。すでに講座も認定して、これから順次拡大していきます。

 

こういったアプリにあたるところ。これはITだけには限りません。あらゆる分野で、ある意味で専門性が高度化をしています。それはファイナンスの分野でも、HR、人事の分野でもそうです。いろんな分野で「アプリ」のアップデートの重要性が高まってきています。

 

ただし、それはすべて「OS」がちゃんとあって、はじめて活きてくると思います。では、OSが何かというと、先ほどの「学び続ける力」です。

結局のところ、ものすごく問題意識の高い社員をさらにスキルアップさせるのはそんなに難しいことではありません。よく「2:6:2」といいますが、真ん中の「6」、さらにボトムの「2」をどういう形で引っ張り上げるか。アッパーの「2」だけで企業は成長するほど生易しくはありません。社員の8割をどうモチベートしていくか。

このときに重要なのが、「人生100年時代の社会人基礎力」。これもまたリトレーニング、教育によって身に着けられると我々は考えています。

 

現在のキャリア観は「キャリアラダー」ではなく「ポケモンGO」

「人生100年時代の社会人基礎力」を考えたときに大事なのが「リフレクション」。人生それぞれのステージにおいて、自分には何が足りないのか、自分は何を持っているか、それをどうやって強化していくか、それを振り返ることを「リフレクション」といいます。そのための機会を提供する。もちろんキャリアコンサルティングも必要です。サバティカル、学びなおしのための長期休暇、こういった制度も経産省から提案しています。

 

いろいろな形でリフレクションしながら、この「人生100年時代の社会人基礎力」というOSをどう身に着けるか。教育の担い手は大きくふたつに分けられます。ひとつはなんといってもやはり大学です。「WASEDA NEO」をはじめとして、さまざまな大学が今、リカレント教育、社会人の学びに正面から向き合おうとしています。もうひとつは「実践」ですね。それは、企業の中における社内兼業であったり、社外兼業であったり、プロボノであったり、インターン、海外留職。いろいろな機会をどう提供していくか。

 

結局のところすべてに共通しているのは、大人の学びに重要なことは、「場づくり」ということだと思います。カリキュラムのコンテンツそのものは、e-Learning、オンラインを利用することで相当技術的なハードルは下がっている。極端にいえば、全世界の優秀なコンテンツに自宅から簡単にアクセスできる。それでもなぜ大学に行くのか?あるいは副業をするのか。それは「場」があるから。人と人との交わりの中で何を身に着けるかということが、社会人教育では重要になってくるのだと思います。

 

経産省と言うと、新聞にも出たのでご存知の方もいるかもしれませんが、事務次官と若手官僚のプロジェクトチームがありました。私の後輩も参加をして、レポートをまとめて、大変話題になったものです。そこでのひとつの大きなメッセージは、「昭和の人生すごろくはもうない」ということなのです。結婚も労働も昭和とはすごく変わってきている。

 

今のキャリア観は「すごろく」や「キャリアラダー」、つまりはしごですね。そういったものというよりは、むしろ「ポケモンGO」なんです。自らいろいろなステージに出かけていって、持ち札を増やす。持ち札は人脈だったり、スキルだったり。しかも、それをやたらに増やすのではない。「自分にとってのレアカードは?」と考えるように、「自分の専門性の核は何にするのか?」と考える。そしてそれを補う形で持ち札をどう増やしていくのか?これが自らのキャリアの「GPS」になるのだと思います。

 

今、日本の組織で求められるのは「花粉の運び手」になる人材

私はリンダ・グラットン教授と、何度も親しくお話してきました。リンダさんのお話で最も興味深いのは、「人生100年時代に何が必要か」をお伺いしたときに出てきた「変身資産」「変身力」について。「トランスフォーメーション」という言葉を使ってらっしゃいますが、まずは自分をよく知ること。何があって何が足りないか。そして、変化、新しい経験にオープンであること。それからいわゆる無形資産、人的なネットワーク。人と人とのつながりが大事であると。これをあげられていたのがとても印象的でした。

 

これと似ているのですが、私が今イノベーションについて研究している中で、大変印象深いと思ったのが、トム・ケリーさんという、デザイン会社の有名なデザイナーの方が書いた『イノベーションの達人!-発想する会社をつくる10の人材』。おすすめの本なので、ぜひ読んでいただきたいのですが、文字通りイノベーションには10種類の人材が必要だと。ここで特に強調しているのが、「花粉の運び手」という概念です。外に出かけていって、異なる分野の要素を持ち帰ってくる。これは今の日本の組織、企業でも必要な人材ではないかと私は思いました。

 

花は自分では受粉できません。ミツバチが花粉を運んできてくれることで受粉ができるのです。みなさんも外の世界に行って、いろいろなものを持ち帰ってくるこの営みによって、所属する組織が成長していく。オープンイノベーションという概念も日本に入ってきてある程度の時間が経ちました。でも、果たしてオープンイノベーションは日本に根付いたのでしょうか?そこでカギになるのが、我々「個人」全員が「花粉の運び手」になるということだと思います。

 

 


伊藤氏によれば、今後の「働き方改革」におけるポイントは3つ

 

1)何時間働いた、何年働いたかではなく、スキル、成果によってきちんと評価される。

 

2)時間や場所の制約にとらわれず、働き手ひとりひとりのニーズに応じた働き方を多様化させていく。人事はそれに正面から向き合っていく。

 

3)「人生100年時代」に、それぞれの立場において、自らの専門性をどう高めていくのか。持ち札をどう増やすのか。そして、それを教育機関または実践を通じてどのような形でアップデートしていくのか。

 

その根本にあるべきなのは「キャリアは天からふってくるものではなく、自分が切り拓くものである」という考え方と、伊藤氏は講演をしめくくりました。

 

 

中編・後編では伊藤氏のほか、ライフシフト・ジャパン株式会社代表取締役 安藤哲也氏、ランスタッド株式会社チーフ・ピープル・オフィサー/取締役最高人材活用責任者 志水静香氏、モデレーターのWASEDA NEOプログラム・プロデューサー 酒井章の4名が登壇するパネルディスカッションの様子をお伝えします。

 

 

中編はこちら

 

 

◆参考URL

WASEDA NEO新設コース「人生100年時代を生き抜く『人間再開発(ver.0)』」