人生100年時代を生き抜くために必要な「自分のキャリアをデザインする力」

インタビュー 2018/6/8

WASEDA NEOでは、“日本発のライフシフトを創ろう!”をコンセプトに、新設コース『人生100年時代を生き抜く「人間再開発(ver.0)」』を今秋より開始します。国が“人づくり革命”を掲げるいま、AIと協働し人間ならではの能力を発揮する、すべての働く人に求められる「OS(基礎力)」を学んでいただくためのコースです。

これに先立ち、同プログラムのパイロット版として、社会人基礎力を高めるためのさまざまな講座を体験できるパイロット講座を6月25日からの5日間で開催。

今回は、プログラム・プロデューサーの酒井 章が本コースの内容に関連し、“なぜ今、一人一人がキャリアを構築していく力が必要なのか”をお話します。

 

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酒井 章(さかい あきら)

WASEDA NEOプログラム・プロデューサー

-人生100年時代を生き抜く『人間再開発(ver.0)』

株式会社電通人事局次長兼電通ダイバーシティ・ラボ多文化ワーキンググループリーダー。中央大学法学部卒。1984年(昭和59年)入社。クリエーティブ部門、営業部門を経て2004年よりシンガポール統括会社に駐在し、企業内大学【Dentsu Network Asia-College】を設立(早稲田大学アジア・サービスビジネス研究所研究対象。太田正孝早稲田大学商学学術院教授「異文化マネジメントの理論と実践(同文館出版)」掲載)。2011年帰任後、グローバル部門を経て、2014年より人事局において社員の自律的キャリア形成支援業務、組織開発業務を担当。2017年、汐留地区の企業・行政・NPOのコンソーシアム「LifeWorkS project Shiodome」を立ち上げ(日本の人事部『HRアワード2017』人事部門入賞)。

 

特定非営利活動法人日本キャリア開発協会所属キャリアカウンセラー(CDA)、NPO法人二枚目の名刺メンバー、公益社団法人日本マーケティング協会客員研究員、青山学院大学客員教授(キャリアクリエーション)、東北公益文科大学大学院非常勤講師(国際ビジネスコミュニケーション)、ワークショップデザイナー(青山学院社会情報学部ワークショップデザイナー育成プログラム修了)

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今こそ、一人一人に“キャリア形成力”が必要な理由とは?

現在、社会人を中心とした“生涯学習”“リカレント教育”が盛り上がりを見せています。その背景にあるのは、世界的な環境の変化と企業の変革です。

 

日本企業はこれまで、株主の価値を高めることに注力し続け、人件費を削減することで生産性を高めてきた側面があります。そうした中で、計画的な社員教育が十分になされず、企業への忠誠心が低下し、働く人の職業観が刹那的になってきた背景があるとされています。また、グローバル化やAIの急速な発展といった世界的な環境変化のなかで、企業は新しい雇用責任、つまり「社員の能力開発」を果たすべき立場に移り変わっています。

政府は昨年から“人づくり革命”を始動していますが、この背景にあるのは、高齢化社会と日本人の長寿命化です。人生100年時代が到来すれば、若い時に教育を受け、大人になってから働き、リタイア後は余生を楽しむというこれまでのライフプランが成り立たなくなるといわれています。

 

だからこそ、これからの人生100年時代に備え、一人一人がどんなキャリアを形成したいかをしっかりと考え、納得のいくキャリアを自らが築いていく“キャリア・オーナーシップ”が重要といわれているのです。

 

先日、WASEDA NEOでシンポジウムを開催した際、経済産業省で“人づくり革命”や社会基礎力の見直しを手がける伊藤禎則参事官が、「これまでのキャリア形成は階段を上るようなイメージ(キャリアラダー)だったが、これからのキャリア形成は“ポケモンGO”だ」という興味深い発言をしています。つまり、一人一人が自分のキャリアの道筋をしっかり辿りながらキャリアをデザインし、自分の能力を常にアップデートしていく時代になってきたということです。

 

 

企業の人事採用のあり方も、より戦略的に変化していく

これまで企業の人事は、制度や手続きばかりに手をとられてきた傾向がありましたが、これからは、“戦略人事”がキーワードです。つまり、経営や事業にしっかりコミットする人事が求められているのです。

 

その点、欧米の人事採用は企業と個々の従業員との契約で成り立ち、それぞれがキャリアを描いてスキルをアップデートするのが当たり前です。日本では、総合職などで広範囲の知識や経験を持つ“ジェネラリスト”は育ってきましたが、これからは、より専門性の高い“プロフェッショナル”を育てられるよう変化が求められているのです。

 

しかも、職人気質のようにひとつの能力を擁しているだけでなく、複数の能力を掛け合わせて最大化できる「人財」がこれからの時代には求められます。

 

今まではひとつの企業の中で、100人に1人の光る才能があれば、それを武器に直線的に活かしていくキャリアプランでした。堀江貴文さんは“多動力”という言い方をしていますが、これからは、100人に1人の才能を自分なりに複数個かけあわせていって、1万人に1人、100万人に1人の能力に高めていくことが求められるのです。

まずは“働く人が自分のキャリアをデザインするマインドやスキルを持つ”こと。その上で企業は、環境変化に適応しながら、キャリアをアップデートできるよう社員を育てていくイメージです。

 

望ましい人材の指標として、「Will, Can, Must」の3つの輪の重なりが大きければ大きいほどいいとされてきました。「Will」はやりたいこと、「Can」はできること、「Must」はやらなければならないことです。そこにプラスして必要とされるのが、「環境の変化を察知する能力」です。当然、経営者は持ち合わせているものですが、働く人にもその能力が必要ということです。

 

自分の会社をひとつの市場と捉え、自分の価値をどのように提供し、さらに会社以外の広い市場でどれだけの価値を見出せるかという“マーケット感覚”を持つことが大事なのです。

 

 

これからの時代にキャリアを築くための新しい指針“ライフシフト”とは?

リンダ・グラットンの著書『LIFE SHIFT ―100年時代の人生戦略』が日本でベストセラーになりました。私自身も、広告代理店に勤務し、人事制度が変わっていく中で、自分なりにキャリアを築くことの重要性に気づいた一人です。

 

同著では、3つのライフシフトの方向性が紹介されています。まずは、ひとつのことを探求していく“エクスプローラー”。次のステップとして、いろんな働き方を実験しながら組み合わせることができる“ポートフォリオワーカー”、さらにステップアップして、独立してさまざまな人や物事をプロデュースできる“インディペンデント・プロデューサー”にシフトチェンジすることが書かれています。

 

私のキャリアにおきかえても、広告代理店の人事局勤務から、キャリアカウンセラーの資格を取り、さらに今は、社外でもその知識を教えるようになり、この流れをたどってきたと思っています。

 

今後、この流れはますます当たり前のものになっていき、人生100年時代を見据えて学び続けるというニーズが更に強まっていくと考えます。そのことも踏まえて、『人生100年時代を生き抜く「人間再開発(ver.0)」』というコースを企画しました。

人生100年時代を生き抜くための“人間再開発”プログラムとは?

本プログラムを構成するにあたり、AIが急速に発達していく中で、人間ならではの能力や創造力を発揮して、自分らしいキャリアを形成できる社会を目指したいと考えました。

 

キャリアの考え方や定義はさまざまありますが、私が考えるキャリアは“いかに自分らしいストーリーを描けるか”ということです。そのために、一人一人が商品価値を持ち、自分自身の“市場”を創り上げ、その能力を開発できるようなプログラムを考えました。

 

このプログラムは、「どこでどんな働き方をするか?」ということを選ぶ以前に、自身のベースを開発するためのプログラムです。経産省では、これを『OS』と『アプリ』という言葉に例えています。『OS』は社会全般に必要とされる基礎的な能力で、『アプリ』はそれぞれの部門に応じたスキル。『OS』を鍛え、人生100年時代を生き抜くために必要なマインドやスキルを学ぶのがこのプログラムです。

 

そのため、産官学の分野から幅広くプロフェッショナルの講師を揃えてプログラムを構成しました。

講師陣は、人事分野のプロフェッショナルとは限りません。たとえば、新設コース『人生100年時代を生き抜く「人間再開発(ver.0)」』の本格展開に先立った、6月25日からのパイロットプログラムの中でも登壇していただく東京成徳大学の関谷大輝准教授の専門は心理学です。

 

職場では、人の心を理解した上でコミュニケーションをとることが必須だ、と関谷氏はいいます。私自身が学んできた中でも、すべての企業人は最低限の心理学は心得るべきという考えに至り、今回のパイロットプログラムにも取り入れました。関谷氏に限らず、講師陣は知識が豊富で引き出しが多いので、リアルに役立つ濃いセミナーになると考えています。

 

 

多様な受講者とともに“越境学習”をすることで自分をアップデート

受講者は、企業に勤めるビジネスパーソンはもちろん、ベンチャー、フリーランス、起業家など、さまざまな人が混ざり合いながら学べる空間を立ち上げられればと考えています。

 

街の中にはさまざまなスペースがあり、オフィスをはじめ、人々が行き交うパブリックな空間、セミパブリックな空間など、大きく3つに分けられます。セミパブリックな空間とは、オフィスの片隅にある打ち合わせスペースのようなところです。WASEDA NEOも、このプログラムの提供を通じて、そんな多様な人々が集まり、学び合う「コ・ラーニングスペース(Co-Learning space)」とでも言うべき空間になるでしょう。

 

働き方が多様化する中で、スタートアップやフリーランスの働く場所はまだまだ整っていないのが現状です。そうした方々にも、活用していただける場となればと考えています。

交流とは、知と知の交換そのもの。WASEDA NEOのプログラムをハブに、新たな事業創造が生まれるかもしれません。

 

パイロットプログラムの中でも、法政大学大学院の石山恒貴教授による「越境学習のススメ」を用意していますが、“越境学習”は、現在とても注目されているキーワードのひとつです。日本の企業で働く人は、毎日同じメンバーで同じような本を読み、同じようなところに飲みに行く人が多いですよね。すると脳がひとつになってしまうのです。それでは意思決定の選択肢が狭められてしまうのも無理はありません。激動の環境変化の中で、このことは企業にとっても大きなリスクとなります。

 

だからこそ、たとえばボランティアなどに参加して、普段はつきあいのない人たちと交流することで新しい気づきを得て、自分の強みや弱みを自覚していくことが必要なのです。当プログラムがすべてのビジネスパーソンにとって、そんな有益な“越境学習”の場になれればと考えています。

 

6月25日(月)〜29日(金)の5日間に実施するパイロットプログラムでは、豪華な講師陣による、副業実践法、即興力、集中力、心理学、異文化マネジメント、越境学習、ダイバーシティなどのさまざまなアプローチの全13講座を用意しています。まずは気になる講座を気軽に体験し、働きながら学ぶ、自らの『OS』をアップデートし続ける体験をしていただくことをおすすめします。

 

 

■本コースの講座はこちらから