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イノベーションを起こす人材の育成方法とは?WASEDA NEOシンポジウム「事業創造人材のつくり方~デザイン思考とその先~」開催レポート

イベント 2018/6/19

 

年々目減りしていく労働人口や消費者を前にして、日本企業は今まさに変化の岐路に立たされています。現在のリソースや資産をもとに、いかにして次世代を切り拓いていけるのでしょうか。そのためには、既存の事業を効率化して安定させるだけでなく、まったく新しい事業を生み出していく挑戦・イノベーションが不可欠となります。

 

WASEDA NEOでは、こうした時代背景を踏まえて、最先端のデザイン手法を用いた事業創造の実践プログラム「みらいブレンディピティ」に加え、「事業創造のためのビジネス・デザイン実践」コースを新設します。コース内では、ビジネス・デザインのスキルを体系的に学び、ゼロからイチを生む課題創造から事業化のプロトタイピングまでを一気通貫で完遂する「共創プロジェクト」まで実践します。

 

同コースの開設に先立ち、2018年6月1日にWASEDA NEOシンポジウム「事業創造人材のつくり方~デザイン思考とその先~」を開催しました。アカデミック、企業内大学、海外デザインスクールといった各分野でのアプローチで「人づくり」の知見を持つ3名が登壇し、自らの体験をもとに、“イノベーションを起こす人材を育成する方法論”についてお話しいただきました。

 

基調講演「10年にわたる東大発のイノベーション教育プログラムで見えたもの」

シンポジウムは、東京大学発のイノベーション教育プログラム i.schoolエグゼクティブ・ディレクターの堀井 秀之氏の基調講演から始まりました。これまでのi.schoolでの事例をもとに、イノベーション人材の育成の取り組みについてお話をいただきました。以下、堀井氏の講演を抜粋してお伝えします。

 

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i.school エグゼクティブ・ディレクター/一般社団法人日本社会イノベーションセンター代表理事

堀井秀之氏

1980年東京大学工学部土木工学科卒業、ノースウェスタン大学大学院修士課程・博士課程修了。専門は社会技術論、イノベーション教育論。i.schoolエグゼクティブ・ディレクターとしてi.school運営し、新しい製品、サービス、ビジネスモデル、社会システム等のアイディアを生み出すことのできる人材を育成。2016年に一般社団法人日本社会イノベーションセンター(Japan Social Innovation Center, JSIC)を設立。政府、企業とi.schoolの学生・修了生が協働して社会イノベーションを推進する活動を通じて、実践的な教育機会を提供することを目指している。2018年に東京大学を退職。著書「問題解決のための『社会技術』」、「社会技術論:問題解決のデザイン」など。

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 誰もがイノベーティブなアイデアを出せる人材になるには?

東京大学のすべての学部や学科だけでなく、学外の方でも講義を受けられるi.schoolは、今年で10周年を迎えました。念頭にあるのは、新しい商品やサービス、社会システムを生むための「人間中心のイノベーション」です。それを志向するべく、グループワークをメインとしたワークショップ型の教育を取り入れています。

 

私たちの目標は、スティーブ・ジョブズのような天才型イノベーターの育成もさることながら、誰もがイノベーティブで新規性の高いアイデアを生み出す人間になれるという自信を持たせることです。その一貫として、デザイン思考を実践するIDEO、Stanford d.school.、アールト大学、ID KAISTなどともコラボレーションしてきました。

 

新規性があり有効性が高いアイデアの発想を、いかに支援できるか。その中心課題を考える上で、認知科学者のマーガレット・A・ボーデンの「創造性の3形態」は参考になります。

 

1.Combinational creativity(組合せ型創造性)

2.Exploratory  creativity(探索型創造性)

3.Transformational  creativity(変換型創造性)

 

自分たちの行っていることが、これら3つのどれに当たるのかをいつも考えています。そして、数多の実践の中から「新しさを生み出す仕組み」を見つけ出してきました。「他者を理解する」「アナロジーを活用する」などがあげられますが、中でも「価値基準をシフトさせる」ことを考えさせられたのは、イギリスのロイヤル・カレッジ・オブ・アートからペニントン リチャード マッキントッシュ マイルス教授を招いたワークショップでのことでした。

 

ペニントン教授は家電製品を分解し、パーツごとに整理しました。そして、サステナビリティの観点から既存の工業製品を検証すると、同じ機能を有しながらも新たに優れた製品を考えるきっかけが生まれたのです。たとえば、ドライヤーなら「温風」ではなく「吸水」という発想がありえるかもしれない。「サステナビリティ」という価値基準にシフトすることで製品のアイデアが生まれたわけです。先ほどの「創造性の3形態」でいう3つ目の要素です。

 

私たちは「イノベーション人材の3要素」はスキルセット、マインドセット、モチベーションだと捉えています。i.schoolがワークショップのプロセスを重視するのは、スキルセットの育成から行なうべきと考えているからです。課題を答えることでスキルセットやマインドセットを身につけ、自らもアイデア創出が「できる」とわかった過程を経て、モチベーションが育っていくのです。

 

また、i.schoolの学生や修了生が、官公庁や企業の方と共にアイデアを創出する実践的な教育機会を提供し、成果を社会に普及させることを狙った”日本社会イノベーションセンター(JSIC)”も創設しています。私たちの関心軸でありKPIは、i.schoolの修了生が「日本や世界を変えた100人」に残ることです。スタンフォード大学のフレデリック・ターマン教授が、学生に起業を勧めたことでヒューレット・パッカードができたように。

 

パネルディスカッション「事業創造人材のつくり方~デザイン思考とその先~」

堀井氏の基調講演に続き、パネルディスカッションを実施しました。引き続き登壇した堀井氏のほか、ヤフー株式会社で企業内大学「Yahoo!アカデミア」学長を務める伊藤羊一氏、電通を経てハーバード大学デザイン大学院で学び、現在は株式会社SEN代表でありWASEDA NEOで講師をつとめる各務太郎氏が登場。モデレーターはWASEDA NEOプログラム・プロデューサーである高橋龍征が担当しました。

 

そもそもの「デザイン」の定義から始まり、「イノベーション人材に共通するもの」といった各テーマについて、異なる知見からの意見が交わされました。

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(パネルディスカッション登壇者・写真上左から)

 

WASEDA NEOプログラム・プロデューサー 高橋龍征

 

i.school エグゼクティブ・ディレクター/一般社団法人日本社会イノベーションセンター代表理事

堀井秀之氏

 

ヤフー株式会社Yahoo!アカデミア学長

伊藤羊一氏

1990年日本興業銀行入行、企業金融、企業再生支援などに従事後、2003年プラス株式会社に転じ、物流再編、マーケティング、事業再編・再生を担当、2012年より執行役員ヴァイスプレジデントとして、事業全般を統括。2015年4月ヤフー株式会社に転じ、企業内大学Yahoo!アカデミア学長として、次世代リーダー育成を行う。

 

株式会社SEN代表/WASEDA NEO講師

各務太郎氏

早稲田大学理工学部建築学科卒業後、電通入社。コピーライター/CMプランナーとして数々のCM企画を担当。2014年電通を退職後、2017年ハーバード大学デザイン大学院にて都市デザイン学修士課程修了。第30回読売広告大賞最優秀賞。第4回大東建託主催賃貸住宅コンペ受賞。他多数。WASEDA NEOでは、ハーバードデザインスクール流の最先端デザイン手法を取り入れた事業創造実践プログラムのコーディネーターを担当。

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デザインの定義を日本だけが勘違いしている?

高橋:

前段として、「デザイン思考」といったものを含めて「デザイン」はよく使われる言葉ですが、同じ言葉を違う認識で使っている可能性があります。そこで、まずは「デザイン」という言葉をいかに定義しているか、あるいはいかにあるべきかをお聞かせください。

 

各務氏:

「デザイン」の定義は、日本だけが突出して違う認識をもっていると思います。欧米では「スタイリング」という言葉があり、日本的なデザインのイメージである“整える”という意味合いで使われています。一方で、欧米において「デザイン」は問題解決のことを指しています。

 

堀井氏:

私は工学がバックグラウンドにあるので、「設計」という意味合いで捉えています。設計の英訳は「デザイン」と合致します。i.schoolでもワークショッププロセスのデザインなど、広義のデザイン=設計という意味合いで「デザイン」という言葉を用います。

 

伊藤氏:

事業創造や問題解決において、構想から実装するまでのプロセスがデザインである、と思っています。取っ掛りは、不足などの「不」を見つけ出す能力、あるいは好奇心といえるでしょう。Yahoo!アカデミアでも、その取っ掛りから事業化まで持っていくために、「デザイン思考」をベースとした事業化プロセスについてのコマを設けています。

 

各務氏:

堀井さんが「デザインは設計」とおっしゃいましたが、デザインという言葉は、これまで日本に2回輸入されたと言われています。最初は大正時代に「設計」という訳で、次は戦後に「デザイン」というカタカナの言葉そのままで再輸入されました。後者は、先ほど私が述べた表面を整えるスタイリングという意味で使われています。

 

ひとつ付け加えると、デザインは課題解決や問題解決として用いられるものですが、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートを中心に「スペキュラティブデザイン」という考えが提唱されています。これは現状のインサイトを発見して課題にするだけではなく、そもそもの問題提起をするためにデザインが使えるかもしれない、というものです。

 

「イノベーション人材」に共通する特性

高橋:

三者三様の方法でイノベーション人材の育成に当たってこられたわけですが、それに相当する人材の共通点が何かあれば、教えていただけますでしょうか。

 

堀井氏:

i.schoolでは毎年、IIT(インド工科大学)やMIT(マサチューセッツ工科大学)、スペイン、フィンランドでもワークショップを開催していますが、国の違いによる差はあまり感じません。みんな一緒のことで笑いますし、同じ価値を共有できる。特に、チャレンジへの意欲や危機意識といったマインドセットが共通していると思います。

 

伊藤氏:

堀井さんの基調講演から分かるのは、イノベーション人材は、スキルより、マインドセットとモチベーションが優れているということです。さらに特徴が2つあります。まず好奇心が圧倒的に鋭敏で、世の中のものを見て、これが問題、と感じられるかどうか。もうひとつは「自分自身が何のために仕事しているのか」、「譲れない想いがあるか」といったような内省、つまり、自分自身をちゃんと見つめられるかどうか。

 

たとえば、堀江貴文さんや落合陽一さんがそうでしょう。彼らは自分のやりたいこと(好奇心)、自身の価値観にピュアですよね。Yahoo!アカデミアでは、それをいかに育てられるかということに取り組んでいます。

各務氏:

私が学んだハーバード大学デザイン大学院では、研究室が「ビジョン」でセグメントされており、バックグラウンドやスキルセットが異なる人材が入ってきます。建築学科でも、医者や音楽家といったようにさまざまな分野の一等星が集まってきて研究室が構成されていました。私の場合は、広告をバックグラウンドに持つ人材として入りました。

 

そこではロジックやマーケティングを極端に否定する教育が行なわれ、何よりも「見立てる力」を重視します。たとえば、音楽のバックグラウンドを持つ人に対して「モーツァルトの心地よい音楽を都市で表現するなら?」や、料理人に対して「料理のレシピを考えるように、建築のレシピはあり得るか?」といったように問うのです。

 

そこにはロジックはありません。「そう見える」かどうかというだけです。ただ、そういうふうに見立てることでアイデアが生まれる。見立てられる人が、良い人材だという教育でした。

 

イノベーション人材を育成するための実践的ヒント

高橋:

みなさんは人材育成の設計をしていく立場でもあるわけですが、どういった課題を抱え、それを超えるためのどんなチャレンジがありますか?

 

堀井氏:

i.schoolは「リフレクション」という反省会をして、次の課題を見つけてPDCAサイクルを回し、少しずつ進歩してきました。また、i.schoolのプログラムは1年間で修了しますが、修了後も大学に残っている人にはディスカッションパートナーとして、後輩のワークショップに各チームに1人ずつ付いてもらっています。

 

ワークショップを助ける役割だけではなく、“メタ認知”で自らを客観的に見返し、後輩に伝えるために言語化もできることで、修了生自身の教育にもなるのです。学びを体系化して、残していくこともできますね。

 

伊藤氏:

Yahoo!アカデミアでは、4つのプロセスを大切にしています。「好奇心を醸成し、自分がやりたいものを見つけ、実装し、世の中に送り出す」という流れです。

 

好奇心は、後天的に身につけるのが難しいですが、まずはとにかくFacebookグループなどを通じて情報を浴びせ続け、さらにその感想を書かせます。圧倒的なインプットとアウトプットを繰り返してといくと、自主的に興味が出てくる分野が表れると共に、表現への基礎体力が身につくと考えています。

 

各務氏:

堀井先生の基調講演で家電製品を分解するお話もありましたが、もっとも重要なのは因数分解のクセを付けることではないでしょうか。

 

「空間的因数分解」と「時間的因数分解」がありますが、たとえば「傘」をどのように認識するか。空間的に傘を捉えると、軸組み、柄、膜と分解した後に、軸組みと柄だけ固定すれば「膜が水を吸収する傘」が浮かぶかもしれない。どれを固定し、どこを変数にするか。物を因数分解しておくだけでアイデアが出やすくなりますよね。あとは、「すげー!」「やべー!」と、物理的に声にだしてみること。これは案外、効きます。

「未来を動かす取り組み」のために、会社や学校はいかに変わるべきか

堀井氏:

i.schoolで取り組んでいるような、社会的価値を生み出すイノベーションはまだ不十分だと感じています。お二人にぜひご意見を伺いたいのですが、社会イノベーションはどのような点に着目するべきだと思いますか。

 

各務氏:

利益を生まないNPO型にならず、お金を稼ぐサステナビリティ型になるということではないでしょうか。MITにいる友人が、マンホールから水質を調べる装置を作りました。すると、各地の尿のデータが集まったわけですが、一部の地域でのみ麻薬患者が多いことが判明したのです。この装置を友人は何十億ドルという金額で売却したそうです。

 

慈善事業で終わらず、ベネフィットを得ることを想定してモノ作りをして、そこへソーシャルグッドを込めていく方が、しっかりと機能するのではないでしょうか。

 

伊藤氏:

なぜ社会的イノベーションが起きにくいのかというと、問題が解決されないからではなく、日本の経営者に想像力が不足しているからでしょう。足元のキャッシュフローは回っていて、景気も悪くなく、新しいことに取り組まなくても生きていけるのでは、と思っている。一定の割合で新しい事業に目を向けないと企業は必ず衰退していくのですが、いまひとつ創造的になれていない。社会的課題ではないところにも社会的イノベーションの種はいくらでもあると感じます。

 

高橋:

最後に、日本の経営者や危機意識をもつビジネスパーソンへメッセージをいただけますでしょうか。

 

各務氏:

会社でも事業部ごとのディビジョンではなく、ビジョンやプロジェクトといった「目的が同じ人」をベースに分けてもよいのではと思います。

 

伊藤氏:

「あなたは何がしたいのか」という自分の“WILL”にもっとピュアになってほしいです。会社勤めをしていると、「やりたいこと」が見えなくなっていく人も多いです。でも、自分がやりたいことを徹底的に突き詰めて、自分で自分の人生をリードしていくことが大事です。そうした火種をつけるのがYahoo!アカデミアの役割なのですが、何よりも自立していくことが大事だと思います。

 

堀井氏:

「人生100年時代」が、ある種のブームになってしまいましたが、言い換えると誰にもチャンスがあるということでしょう。私は60歳で東京大学を退職しました。「大学の先生」のこれまでのビジネスモデルとしては、他の大学で給料をもらうのがよくある道ではありましたが、今後はそれが通用するとも思えなかった。そこで、人の雇用を奪うよりも職を作ることを選びました。自分で作った法人ですから、私には定年がなくなりました。

 

今はまだ一般的ではないかもしれませんが、これが未来の当たり前になるはずだと考えています。ビジネスチャンスは多く、教育の領域にはまだまだ眠っています。社会人教育はますます大事になり、社会全体にもその機会がある。その点で、WASEDA NEOは未来のあり方を先取りしているのかもしれません。未来を動かす取り組みが増えるといいなと思います。

 

 

◆本シンポジウムに関連した、事業創造人材育成プログラムはこちら

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