「守る」から「攻める」伝統産業。「競争」ではなく「共創」を・パイオニアセミナー開催レポート

イベント 2022/2/25

富山県高岡市にある、伝統産業・鋳物メーカー『能作』をご存じでしょうか。海外からも注目される世界初の錫100%の食器をはじめ、高品質でデザイン性の高い作品の数々、スタイリッシュな本社工場・ショップ、日々集う多くの観光客の賑わい、子供たちの笑顔…。

従来の「伝統産業」「町工場」のイメージを覆し、社員がイキイキと働く「能作」のここまでの歩みと、伝統産業のこれからについて、社長・能作 克治さんにお話しいただきました。

 

 

株式会社能作 代表取締役社長 能作 克治 氏

1958年、福井県生まれ。大阪芸術大学芸術学部写真学科卒。大手新聞社のカメラマンを経て、1984年、能作入社。2002年、株式会社能作 代表取締役社長に就任。世界初の「錫(すず)100%」の鋳物製造を開始。2017年、16億円を投資し本社屋を新設。社長就任時と比較し、社員15倍、売上10倍、8年連続10%成長を営業なし、社員教育なしで達成。2020年、台湾に合弁会社「能作貴稀金屬股份有限公司」を設立。1916年創業、従業員約160人、国内13店舗、海外に1店舗を展開している。 第1回「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」審査委員会特別賞、第1回「三井ゴールデン匠賞」グランプリ、日本鋳造工学会 第1回「Castings of the Year」などを受賞。 2016年、藍綬褒章受章。 地域と共存共栄しながら利益を上げ続ける仕組みが注目され、各種メディアで話題となる。

 

 

 

能作と高岡の伝統産業

 

うちの会社は創業が1916年で、ちょうど今年で105年を迎えることになります。本社はこの高岡市にあるんですが、東京では千代田区の丸の内に事務所と、お店を出させていただいてます。

また直営店が今現在、国内13店舗あります。会社の規模の割に直営店が多い理由っていうのは、やっぱり伝統のものづくりなんですね。だから伝えて販売したいなっていう気持ちがかなりありまして。うちの社員が直営店には立ちますから、伝統のことや地域富山県高岡のこと、さらに職人の気持ちなど、製品のすべてを説明して買ってもらう売り方をしています。

 

高岡で鋳物はなんで盛んかと言うとですね。実は石川県金沢、要するに前田藩の前田2代藩主前田利長っていう方が、高岡にお城をお築きに来られた時ですね、高岡には全然産業がなかったわけなんですよ。なので、大阪から鋳物師(いもじ)を7人連れてきまして、特権階級を与えて根付いたのが、鋳物の産業高岡銅器と言われています。

ですから、富山県でもこの西の地区は伝統産業も歴史文化もたくさんあります。うちの会社がやっているのは「鋳造」、鋳物の仕事で溶けた金属を型に流し込むことを「鋳造」といいます。できたものを「鋳物」といいます。

 

 

「守る」伝統から「攻める」伝統へ

 

うちの取り組みを簡単に言っちゃうとこういうことなんですけど。伝統産業の人たちってすぐどういうかと言うと、「守る」っていうことなんですね。なんでもそうですけども、守っているとどんどんどんどん衰退してくるわけですよ。そのスピードが速いか遅いかはともかく。やっぱり新しいチャレンジをどんどんして、攻める伝統をやっていかないと保たないだろうっていう思いで、昔から現在もこの気持ちでやっているという会社になります。  

 

創業106年なんですが、実は富山県高岡市の伝統産業含め、日本の伝統産業全てそうなんですが、分業体制なんですね。なのでうちは生地屋さんという立場で鋳造して形を作るのがうちの役目なんですね。色を付ける着色屋さんが別にあって、加工する人もいる。で、それを束ねる産地問屋さんという人もいるわけですね。うちはその産地問屋さんに向けて、製品をずっと作ってきたわけです。ですから完全に下請け的な要素で仏具とかお茶道具、それから花器を長年作ってきたというのが、うちの会社になるんですね。

 

 

消費者のニーズを探る

 

ただその時思った事は、実際に使っているユーザーの方の評価を仰ぎたい。ところが、うちはその下請けで素材を作っている役目ですから、それを問屋さんに納めちゃっているんで、どんな色を付けて、どこで売られて、いくらで売られているかも知らないという、完全に技術しか売ってなかったっていう立場で、なんかのチャンスがあれば、ぜひ自社製品の開発をしようとその時に思いました。

石の上にも3年って言いますけど、3年経ったところから楽しみはどんどん増えてきまして。いかに鋳物を綺麗にできるか、あるいはそのお客さんの声を聞きたいがために、自社製品の開発を絶対するぞっていう意欲が出てきました。

 

チャンスが巡ってきたのが、この2001年で、よくある地方の勉強会です。東京からデザイナーとコーディネーターがやってきまして、参加するメンバーはみんな自分の製品持って来なさいって言われました。持っていったら「能作さん、すごく鋳物が綺麗だね、東京で展覧会やらないか」って言われて。2001年に東京の原宿で約1週間、夏の時期でしたけれども、展覧会をやりました。ただ、困ったことにうちは仏具とか茶道具、花器しかやってないんで、並べるものもないわけですよ。お茶道具とかを並べる中、唯一作ったのがベルですね。その後、この展覧会のベルで本当にうちの大きなきっかけになることが起きます。

 

それは何かっていうと、東京のセレクトショップから自分でデザインして作ったこのベルを扱いたいと言ってきたんですよ。初めてユーザーの一番近いところに製品が並んで、ましてや、自分でメッキ屋さんに行ってメッキをつけてもらって、箱と説明書も作って完全な完成品で出した製品の第1号なんですね。これで製品化できると思ったんですが、このベルが全然売れないんですよ。

 

 

やっぱり難しいなーと思っている時に、その店員さんの女性の方から、能作さんのこのベルはスタイリッシュで音が綺麗だから風鈴にしたらどうですか、って言われたんですね。半信半疑で作って並べたところ、なんと3か月で3000個売れました。ベルの100倍です。これがきっかけで、ユーザーの一番近いところに居る人たちの意見を聞いた開発をしていこうというふうに思ったんですね。とにかく店員さんの意見を聞くことと、やっぱりデザインが大事なんでデザインを付加した製品を作ろうと決めて、20年近く製品開発しています。

 

 

逆転の発想:曲げて使う製品

 

もう1つの新しい取り組みが錫です。2003年から始めました。なんで錫だったかっていうと、先ほどの女性店員さんがもっと身近なもの作りませんか、と言ってきたんですよ。何が欲しいの、って聞いたら食器って言うわけです。うちは銅合金しかやってなかったので、高岡に戻って保健所に電話をしまして、真鍮でお皿作っていいですか、って聞いたわけですね。ですが、食品衛生法で銅は禁止なんですね。うちが持っている技術が活かせて、食品衛生法で大丈夫な金属で考えたのが、実は錫なんですね。

 

日本には、大阪錫器とか薩摩錫器ってあるんですけれども、皆さんは錫に銅とかアンチモンを入れて硬くして加工する。要するに金属は硬くて当たり前だっていう感覚なんですよ。うちの会社がそれを真似るとものまねになる。革新性が無いのはいやだなと思っていろいろ調べてみると、世界に100%錫で製品を作っている会社が1つもなかったんですね。

 

じゃあそこをチャレンジしよう。なんで100%錫でつくる会社が1つもないかっていうと、ぐにゃってすぐつぶれてしまうので、機械的な加工はできないんですよ。でも、なんでやろうって思ったかというと、うちは結構微細な鋳造ができるんで、事前に1ミリなら1ミリの型で加工しなくて良くしてしまえばいいということで、なるべく加工の量を減らしたまま、製品を作ることができるんです。

 

チャレンジを始めて、曲がるっていうことは最初は欠点だと思っていたんですね。だってお皿が曲がったり、コップが曲がったりするわけじゃないですか。で、その欠点をデザイナーに相談しました。そのデザイナーは、「能作さん、曲がるなら曲げて使ったらいいじゃない」って言いだしたんですね。僕もそれ聞いて「あ、そうだな。別に曲がってもいいじゃないか。お皿が曲がったってコップが曲がったっていいじゃないか」って言うんで、曲げて使う製品っていうのは、その時に出来ました。

 

 

よく逆転の発想と言われますけど、それが大ヒットしました。ほかの特性としては、錫は非常に錆びにくい。要するに酸化しにくいんです。それと抗菌作用があるという特性もあります。それからお酒がまろやかになる。2016年に金沢工業大学に一年間研究をしてもらったんです。すると錫には酸化チタンほどじゃないんだけども、光触媒作用があることがわかりました。なので、明かりによって味を変えるっていうことなんですよ。

 

 

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