「守る」から「攻める」伝統産業。「競争」ではなく「共創」を・パイオニアセミナー開催レポート

イベント 2022/2/25

 

海外での試み

 

ちょっと海外の取り組みの話なんですが、実は海外展開は12年前からやっているんです。ここに書いてあるように、なんで海外を目指したかっていうと、海外の評価を仰いで世界ブランドを目指したいと思ったんです。実は金属って日本人は苦手な民族なんですよね。焼き物とか木製品を見ると、いいね、温かいね、って言うけど、金属を見ても、冷たい、キレる、って言われるのがオチなんですね。

 

なぜかといえば、大陸から武器として入ってきた、あるいは農耕具として入ってきたってこともあるもんですから、ところが、大陸は金属文化がありましたから、金属は海外の本場であると。競合する相手も多いんですけども、世界に通用するかもしれないなんて言うんでやりだしたってことですね。それからその当時、やっぱり海外の展示会に行きたいっていう中小企業もたくさんいたんですけど、ちょっと中小企業には敷居が高いんですね。なのでうちの会社が先に行って、その海外のワダチをつけてあげれば、ほかの人に提供できるなという思いがあって、海外チャレンジを始めたと言うのがきっかけになります。

 

だんだんわかってきたことは、各国の文化を見据えた製品化です。よく日本国内でもこんだけ売れているけど、海外に持ってったら130倍の人口がいるからもっと売れるって言う人がいるけど、売れないんですよ。やっぱり国によって使うものがすべて違っているんで、そこをしっかり見極めた開発をしない事には売れないと思います。面白かったのが、ミラノで赤ワインのお皿を作ってくれって言われたことです。なんでかっていうと、ヨーロッパってテーブルクロスをかけて食事をする国なんですね。だから、赤ワインって白いクロスに落ちると血の跡みたいに見えるんですね。だから赤ワインだけはお皿が欲しい。これも文化の違いっていうか、そういうことをどんどん吸収したいなと思うんですけど。日本にいてもなかなかそれができない。なので、海外展開はインバウンドを当てにせずに、アウトバウンド、現地に出ていって、現地の企業とやろうっていう考えで、今動いています。

 

 

伝統産業を地域みんなの「誇り」にしたい

 

ここからはいよいよ、いま力を入れている産業観光への取り組みについてです。

 

(VTR内:工場見学に来た親子。その母親が「ちゃんと勉強しないとあのおじちゃんみたいになっちゃうよ」と子供に話す。)

 

さっき勉強しなかったらこんな仕事になっちゃうよって言ったお母さんっていうのが高岡の人だったんですよね。全国的に、割とそういう見方の方が多いんですよ。それをどうしたら変えられるかと思って考えたのは、人に見てもらうことが大事だと思ったんですね。なのでそれ以来、子供たちを優先に工場の中に堂々と入れて、見てもらっていました。

「勉強していなかったら、こんな仕事」って言われた仕事にもかかわらず、今は小学校で見学に来ましたって言う子供達が就職したいとやって来るようになったんですね。だから30年かかったんですけど、少なくとも富山県民の伝統産業の見方っていうのはだいぶ変わったのかなっていうふうに思います。

 

 

産業観光をやるってことはね。やっぱり地方創生につなげたいんですね。地域のことを伝えたい、県内観光のハブ的な役割をはたしたかったんです。どういう意味かっていうと、うちの会社に来て、次に行きたい場所を探してもらって、そこに行ってもらうということです。

要するに、うちの会社に来て、すべて買い物して帰っちゃったら産業観光じゃないんですよ。だから産業観光って実は独り占めしたらダメなんです。

みんなと協調してやっていくべきなのが産業観光であると思っています。

 

産業観光の取り組みで大事なことっていうのは、やっぱり受け入れ態勢を万全にするということですね。うちの会社がやり出したら、ほかの企業さんでも同じようにやりだすことができたんですが、なぜかしら土日休みにしている。これはおかしいですよね。1番お客さんが来る時なのに。だからうちはもちろん、工場は、平日は勤務で土日は休みなんですけど、産業観光に取り組む人たちは土日もやってます。

地方創生というのはよく出てきますけど、これも大事なポイントで。民間が頑張ることによって、地方が創生するっていうのが大事じゃないかなと思っているので、今後も産業観光には力をいれていきたいなと言うふうに思っています。

 

行き当たりばったり経営

 

最近よく、「能作さん、すごいブランドになったけど、どうやってなったんですか」って聞かれるんですね。正直な話、自分はブランド化しようなんて一切思ってなくて、ただお客さんに言われたことに対して「できない」っていう言葉が大嫌いなので、なんとかなんとかって応えてきたら、今の状態になったんです。

 

「行き当たりばったり経営」って言ってますけど、先を読まない、あとは数字を求めません。例えば社員に今年は20億いきなさいとか、そんなことは一切言いません。直営店に対してはもっと極端です。今13店舗ありますが、スタッフには、極端に言うと売らなくていいよ、と言います。「売らなくていいけど、ちゃんと富山県のこと、高岡のこと、職人のことを素材のことを伝えてくれと」。でもそれを言っていると売るんですよね、不思議と。

 

 

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