二律背反というか、対立構造を抽出するということがベースです。
例えば、必ず主観と客観の両方でその物事の両面から見る。例えばいま、私の目の前にはキヤノンの外付けのカメラが置いてありますが、これは客観的にみればキヤノンの一眼レフですが、主観的に見ると「早くこれ持って公園や野原に撮影に行きたいなぁ」と思ったりするようなものです。必ず2つの側面があります。
人間の体、例えば動脈と静脈に例えて今の現代社会を経営的に考えた場合、社長が心臓から全60兆の細胞に必要な栄養素や酸素を送り込むのですが、その際は情報処理を静脈系が担っています。
動脈系の組織になりすぎていないか、静脈系が自らの組織にしっかり張り巡らされているか。必ず何か見る時に陰と陽、動脈と静脈、また主観と客観など、ありとあらゆるものに対立する構造物があるので、その両面をまず目の前に並べて、その両者のバランスをとった議論にしていくような習慣を持つのが良いのかもしれません。
人が偉くなっていくことを重視します。例えばテレビ局の人、記者。それから選手、これらの人が偉くなり、成功するにはどうしたらいいだろうということを本気で考えます。
傍(はた)が楽をする、それが「働く」ってことだっていうようなことを従業員にも話しました。
仕事というのは仕えること。とにかく誰かが自分が仕えることで楽をしてくれたら、楽しく人生成功してくれたら、またどれだけ自分が人を偉くしたかということが勲章だというような考え方がベースですね。
従って、私と一緒にご縁があった人が偉くなる、立派になる。これが何より嬉しいことだと思います。
皆さんは若い方が多いので知らないと思うのですが、昔、銭形平次というドラマがありました。
このドラマの本質は、情報の流通を見せていると思うんですね。現場にいるハチが「親分てえへんだ!」って上にあげて解決する。
実は、重要な情報について上から順番に見ていくと、必ずしも上がいい情報を持っているとは限らないということなんですよね。岡っ引きのハチが一番重要なコンプライアンス事象の初動の情報を持っていて、それを上にしっかりと伝えるっていうことがすごく大事。
でも下からすると、上にどの情報を持って行っていいか分からないんですよ。上はもう知っているだろう、こんな情報は今からあげてもバカかって言わてしまうだろうとか。
しかし、上が情報を開示することによって、上はもしかしたらこの情報はまだわからないのか、それでは持っていこうということになるわけです。
情報流通の神経系統を整えていくためにも、情報を開示する事がすごく大事です。プライバシーまで天日にさらす必要はないわけですが、ほぼ大半が従業員が共有すべき情報なんです。
この体質にするのに必要なのは、やはりトップの見識とトップの覚悟。すごく勇気がいることなので、だいたい躊躇し隠したくなってくる。だから開示を迫るのが社外取締役だったり外部の人だったりするわけです。
まず重要な会議の中に本当にモノが言える人を入れているか。これも天日干しの1つの変形です。
みんな、ファジアーノ岡山みたいにしたらいいのに、と思いますね(笑)。木村さん(木村正明、Jリーグクラブのファジアーノ岡山がJクラブ加入時の初代社長)が0から本当に1人でファジアーノ岡山を立ち上げたプロセスをずっと見て行くと、クラブに対する愛や地域に対する愛があふれていますよね。
クラブは社長の器以上にはならないです。従って、とにかくクラブの社長により良い人材に就任するよう、より良い社長が選ばれ続けるような仕組みをしっかりビルトインすることが大事だと思います。
スタジアムの箱以上に人は入れませんので、入場料収入にもキャップがあります。看板や広告にも上限があります。これを超えて収益を獲得して行くためには、多くのファンの人達が、スタジアムの中でも外でもクラブのことを愛してくださって、クラブが文化になることです。
その文化は強制ができないので、一朝一夕にはできない中で非常に長い年月、積み上げていくものですので、特効薬はありません。
ただ、やはり経営者の力量の差がクラブには出てしまう。その力量の差は地域に対する愛情の差とか、自分を天日にさらして開いていくような勇気の差だと思っています。
私は引退したら恩返しを込めて、史上最大のセカンドキャリア支援をしてみたいと思っています。
サッカー選手は「俺、サッカーしかやってないから、経理も本もデジタルもわからないからきっと俺無理だ」って思っています。
でも、本当に逃げない、困難があっても立ち上がる、逃げずに向かっていく姿勢・仕事があれば、選手はできると思います。
むしろ、「経理だ、法務だ」のようなことまで全部選手に背負わせてしまうからできないわけです。それは誰だってできないんです。むしろ一番経営者に必要なことである「逃げない、困難があっても、前に進んでいく立ち上がるリバウンドメンタリティー」を持っている選手たちは、相当レベルが高いと思っています。
社会にそういう能力やコンピテンシーの翻訳装置がないだけなのです。でも、そこはしっかりもてると思っていますので、僕は全く可能だと思います。
私もチェアマンという役割を終える中で、おそらく今日のこの講演が最後になるのだろうなと思いながら話をしていました。そういう意味では自分の中での整理が進んでいたようにも思いました。長時間お付き合い頂き、ありがとうございました。
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