ジャパネットたかた創業者・髙田明氏に学ぶ!未来を創造するための3つの「理念」<前編>

パイオニア・コミュニティ 2018/4/23

未来志向の人々が学び合い交流する場である「WASEDA NEO」では、毎回さまざまな業界で活躍するイノベーターを講師にお招きするパイオニアセミナーを実施しています。

 

今回、登壇いただいたのは、ジャパネットたかた創業者の髙田明氏。髙田氏は3年前にジャパネットグループの経営を譲り、現在は、個人の講演活動を行なう「A and Live」やサッカーJ1クラブチーム「V・ファーレン長崎」の運営法人の代表を務めています。

 

「ジャパネットたかた」時代は、ほぼ休みなしでテレビやラジオに出演し続けた伝えることのプロである髙田氏。そんな髙田氏は、これまでどのようなスタンスで走り続け、これからの未来を創造してきたのでしょうか?313日に行なわれた講演から、そのビジョンを紹介します。

 

髙田氏の講演でまず驚くのが、原稿なしということ。「ジャパネットたかた」時代に、50時間の生放送テレビショッピングで原稿なしを基本に、テレビやラジオに出演していたからこそなせる技です。まずは退任後の数年間の活動を振り返り、人生でもっとも大切にしている3つのことについて語っていただきました。

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<プロフィール>

高田明さん

1948年長崎・平戸生まれ。2015年に株式会社ジャパネットたかた代表取締役を退任後、株式会社A and Liveを設立。サッカーJ2クラブチーム 「株式会社V・ファーレン長崎」代表取締役社長に就任。著書に『伝えることから始めよう』(東洋経済新報社)などがある。

http://www.aandlive.com/profile

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「生き生きした世の中を」をミッションに、講演活動

3年前に生き生きとした世の中ををコンセプトに、「A and Live」を設立し、全国をまわって講演活動をしています。本当は本意ではないし、妻からも、「あなたは講演をするような立場じゃない」と言われるほどです。でも、ありがたいことに多くの機会をいただき、この3年間で300回ほど全国を回りました。

 

ジャパネットたかたの頃は、ラジオやテレビに出演する生活が9割。食事もたった10分でとり、ひどいときには1年間で1日しか休まないほど、走り続けた人生でした。今はおかげさまで、全国のあらゆる町を訪れ、いろいろなところを歩きながら多くの方と巡り会い、新たに多くのことを勉強させていただいています。人との出会いはやはり、人生を豊かにすることだと感じています。

 

J3降格の危機にあった「V・ファーレン長崎」を再生できた理由

現在私は、長崎のサッカーJ1クラブチームのV・ファーレン長崎を運営しています。V・ファーレン長崎をどのくらいの方がご存知でしょうか?実際、1000人中5人くらいしか手が上がらないほど知られていません(笑)。事の経緯は、ジャパネットたかたがチームのスポンサーをしていたのですが、昨年、経営危機に陥りました。3億円以上の累積赤字があって、もはや倒産寸前。選手やスタッフの給料も支払えないかも。この先どうなる?ということで、長崎のメディアにも大いに取り上げられました。

 

「長崎の夢を消したくない」という想いから、現在ジャパネットホールディングスの社長を務める長男と相談し、ホールディングスによる支援を表明しました。というわけで現在、V・ファーレン長崎はジャパネットホールディングスの子会社となりました。

 

いざ再生するとなると、非常に大変な状態で、今でもその再生作業は続いておりますが、なんとか今シーズンのうちに経営の採算ベースに乗る段階まできています。

 

そんな危機的状況にあって、選手や監督、スタッフも本当に落ち込み、誰もが「本当に大丈夫だろうか」と不安に思う中で、なんと長崎の奇跡が起こりました。それまで441引き分けでJ2だったサッカーチームですが、後半の13戦は負けなし。選手たちが本来の力を発揮して、自動昇格でJ1に上がることができたのです。

経営問題以外にも、過去の入場者数の水増し問題が浮上し、Jリーグへの違約金として300万円の損失を出し、ゼロどころかマイナスからのスタートです。そんな会社が、たった7ヵ月でなぜJ1に昇格できたと思いますか?

 

私はこのとき、多くのマスコミから「社長として何をしたのですか?」という取材を受けました。でも、私の答えは、「なんにもしていません」。なぜだと思いますか?

 

誰しもいろんなことで思い悩みます。でも、悩むだけでは問題は解決しません。そこなんです。結局、人は気持ちの持ち方次第なのです。実は、これだけで人生がいくらでも変わります。そして、年齢は関係ありません。10代でも、100歳であっても変わりません。何歳になっても気持ちの持ち方ひとつで、どうにでも人は生きていけるのです。

 

私がV・ファーレン長崎の経営再建をするにあたって、1つだけしたことと言えば、私が社長としてその責任を持つこと。そのうえで選手や監督は、とにかく練習や試合の一戦一戦に集中してほしいということだけでした。すると、選手たちや監督、スタッフが本当に頑張ったのです。その気持ちの切り替えだけで、13戦負けなしという結果が出たのです。

 

同じことが、みなさんにも言えます。自分の力をどの程度自己評価しているのかはわかりませんが、本当はすごい力を持っている。それなのに、その力を発揮できない気持ちの持ち方があるのではないかと思うのです。

 

もともとV・ファーレン長崎の選手も力があったのです。でも、それを自分たちが信じられなかった。気持ちが変わることによって、選手たちの力がどんどん発揮されて、J1の中でも闘える力がついたのです。その証拠に、すでにJ1の闘いはスタートしています。最近では、サポーター数がもっとも多いことで知られる浦和レッズが長崎へ。なんとその試合で浦和レッズのサポーターは、5,000人も長崎にやって来ました。向こうはアウェイなのに、観客席は浦和レッズのユニフォームの赤一色で応援もすさまじく、スタジアムの3分の1を占めていたほどです。結果は、接戦の末、引き分けでした。

 

これは、気持ちさえ変われば、不可能なことが可能になるということを示しています。それと同様のことを私は、ジャパネットたかたでも、もっと前のカメラ店時代にも経験してきました。

変えようがないことで悩む必要はない!

ところで最近、「地政学リスク」が話題になっています。トランプ大統領がひと言何か言うだけで、株価も為替も大騒ぎです。天下のトヨタ自動車といえども、いくら業績を上げても株価のコントロールはできません。かといって、みなさんの中に、トランプ大統領の発言を変えられる人はいませんよね?

 

ここ数年、ギリシャ危機やイギリスのEU離脱をはじめ、北朝鮮問題にしても、本当に世界が狭くなりました。ITの進化、グローバリゼーションといった地政学リスクは、個人には変えようがないことです。でも、実際はそうした変えようがないことで悩んでいる人が本当に多いと思うのです。だから、今すぐそれをやめてください。

 

そもそも人間の脳には複雑にたくさんのことを解決する能力はないのです。であれば、自分の力では変えられないことで悩むのをやめることです。そんなことよりも、「5年後、10年後の自分の理想の人生をどう生きて行くか?」という希望を常に持っていなければなりません。

を生きることで、数年後の理想の自分を描く

5年後、10年後、20年後の姿を描くには、まずはを変えること。を変えて明日を変えることに集中することが、必ずみなさんの将来を保証してくれるはずです。これを具体的に言えば、今を生きるということです。私自身、今ここに登壇して、みなさんに限られた時間の中で、どれだけの感動をお届けできるかということを考えて、すべてこの瞬間に賭けています。

 

「天才」という言葉がありますが、天才とは、頭がいいことではなく、努力をする才能だと思います。つまるところ、努力するしかないわけです。そのためには今を生きるしかありません。今を生きれば、明日が変わります。明日が変われば、明後日が変わっていく。それを繰り返して、を生きていくのです。

 

ところが厄介なことに、「過去」というものがあります。もし100回以上失恋したら、もう次に女性に声をかける勇気はなかなか湧きませんよね。でも、過去のことは変えようがないのに、それがトラウマになっているわけです。これはバカらしい話だと思います。

 

がんばっているつもりでは明日は変えられない

ただし、今を生きても、がんばっているつもりでは意味がありません。どんなに高尚なセミナーを受けて、素晴らしい人に出会い、いい本を読んでも、がんばっているつもりのままでは、1年後や10年後の未来を変えることはできないのです。

 

ジャパネットたかた時代、どんなにテレビやラジオ、インターネットで紹介しても、売れないものは何十回やっても売れませんでした。そのときに気づいたのは、「もしかしたら、伝えたつもりになっていたのではないか?」ということです。商品についてどんなに説明しても、伝えることと伝えたつもりでは大きく異なります。工夫を凝らして説明し、お客さんに商品のよさを理解していただき、ちゃんと伝わったときに初めて注文の電話は鳴るのです。

 

伝えたつもりでは絶対に商品を買ってもらえないと気づいてからは、私は何十回と商品の紹介の仕方を変える工夫をしました。その結果、ようやく伝わったときに、1つの商品が1億円以上の売り上げを叩き出すこともありました。これには大変驚きました。

やるべきことの優先順位をつけて取り組めば、未来が拓ける

制約理論を確立した、イスラエルの物理学者、エリヤフ・ゴールドラットが書いた『ザ・チョイス』という本があります。その中で、心理学者の娘との会話の中で、企業再生を考えるストーリーがあります。物事を複雑に考えず、シンプルに考えることが大事であるということが書かれています。

 

たとえば、今ある悩みを書きだしてみてください。20個あったとして、それを同時に解決しようとしても絶対無理な話です。ではどうすればいいかといえば、シンプルに、優先順位をつけて取り組むことです。自分にとって今一番必要な、やるべきことに取り組めば、残りの問題はそんなに大したことではなくなります。

 

私の場合に置き換えると、V・ファーレン長崎について、今やらなければならないことの優先順位のトップが、「みんなの気持ちを変える」ことだったので、それを実行したら奇跡が起きました。

 

私は大学を出て、サラリーマン生活を経て、25歳から40歳までの15年間は写真屋さんをしていて、そのときにラジオショッピングに出会い、そのご縁でテレビショッピングに。やがて紙上でのカタログやチラシの通販も始め、時代の流れでインターネットの世界に。そうしていつの間にか、メディアミックスというかたちで商機が広がりました。こういうと戦略的に見えるかもしれませんが、とくに私は何も意識していません。

 

ただ、そのときどきで目の前のことをがんばってやっていたら次の課題が見つかり、広がっていったかたちです。何をやればいいかということは、今を生きていたら必ず、自動的に自分の中に課題がでてきます。

 

これは縦列ばかりではなく、横列にも表れる話です。企業の組織改革にしても同じことがいえます。問題が1つ出てきたら、この問題を解決しようと、次の問題が出てきます。そしたらまた次の問題が出てくる。それでは全然解決になりませんよね。これは、「横軸も変えていかないと問題の解決は図れない」というサイン。全体を最適化できて初めて企業は成り立つ理論です。そのために大事なことは、今目の前にあることを一生懸命やることに尽きます。

髙田氏の人生でもっとも大事な3つのこと

mission(使命)

私の人生で大事なことは、「3つのション」です。1つ目は、「mission(使命)」。自分はどんな人生を送りたいか、何を目指して人生を生きていくかという、人間としての使命を持つこと。特に起業を目指す人は、企業としての使命をちゃんと持っている人でないと、企業は作れません。

 

ジャパネットホールディングスは、現在売上が2,000億円におよぶ勢いですが、そうした売上とか数字上のことではありません。私が現役のとき、嬉しかったことがいっぱいありました。たとえば、商品を通じてお客様の人生を変えることに繋がったこと。29,800円のカラオケを販売したとき、東北に嫁いだある新婚の女性から手紙をいただきました。

 

見知らぬ土地に嫁いだら、近所は全然知らない人。お義母さんともっと会話をしたいけど、寡黙な人なのでコミュニケーションがとりにくい。そんな中、ジャパネットたかたのテレビショッピングで歌のうまい人が歌っていた。多分私のことです(笑)。それで、カラオケを購入いただいた後、生活が180度変わったそうです。実は、女性のお義母さんはカラオケが大好き。カラオケを買って以来、毎日近所の人も集まってカラオケを楽しみ、すてきな新婚生活を送っていますという内容の手紙でした。たかがカラオケ、されどカラオケです。私たちが売ったカラオケが、この女性の新婚生活を変えるきっかけになったわけです。これがまさしく人として、企業人としてのミッションであると思います。

 

また、一方で、ニコンのカメラを購入した、小児がんにかかった家族の方からお手紙をいただいたこともあります。当時はまだアナログで、一眼レフの高価なカメラです。がんを患った子どもさんが小学校高学年になったとき、家族がたまたまジャパネットたかたのテレビショッピングを見て、購入しました。

 

すると子どもさんは日々写真を撮るようになり、撮った写真を送ってくださいました。「息子は頑張ってがんと闘いながら、楽しく写真を撮っています」。そんな手紙を読んで、当時、ニコンの営業の方がボロボロと泣いていました。数年後、再びその家族から、「おかげさまで息子はがんを克服しました。ありがとうございます」という手紙をいただいたのです。

 

このカメラの力ってすごいと思いませんか?これこそが、私の思うミッションなのです。人はなんのために生きているかといえば、人のために生きてこそ、やっぱり人。このブレないミッションを個人の人生はもちろん、企業にも持っていないと、絶対に長く存続する企業は作れません。だからこそ、個々にミッションがある人は、まずはそこを一番大事にしてください。

自分の中にブレないミッションがあれば、危機も乗り越えられる

どんなにミッションがあっても、人生には突然予期せず大変なことが訪れます。ジャパネットたかたでいえば、14年前に起きた個人情報流出事件。個人情報保護法が制定される前年のことです。

 

テレビショッピング10周年の放送直前に大騒ぎになったものの、商品はたくさん仕入れているし、放送枠はすべておさえ、タレントさんも呼んで特番収録も終えたところでした。でも、私は勇気をもってすべての媒体での販売を停止しました。このとき、とっさに締める決断はできていました。

 

今振り返っても、「よくそんなことができたな」と思いますが、それも私の中にミッションがあったおかげだと思います。「私はなんのために物を販売しているのか?」ということを突き詰めて考えれば、そんな問題を起こしておきながら、商売をしている場合ではありません。結果、150億円の損失がでました。でもそのとき私は、社員を何百人も抱えて倒産できないが、ゼロから出直して絶対にまた頑張っていけるという覚悟を持って、を生きたのです。すると、お?りを受けながらも、支援のお手紙を沢山いただき、翌年には売上を回復させることができました。そして2年後には、ついに売上が1,000億円を越えたのです。

 

②「passion(情熱)」

2つ目は、「passion(情熱)」です。そうしたミッションを達成するのに必要なのは、スキルもマインドも大事ですが、一番は情熱です。

 

情熱なくして、人の上には立てません。ぼそぼそ言っても物事は変わりません。高い声で言った方が、低い声よりもより伝わります。伝えようとすればするほど、身振り手振りも自然に備わってきます。

 

サミエル・ウルマンの詩集『青春』では、人間は、合理的な社会でも情熱を失ったときに年老いるということが書かれています。100歳を超えても青春を謳歌するお年寄りはいっぱいいます。それは、情熱の固まりやミッションを持って生きている方じゃないかと私は思うのです。

 

③「action(行動)」

最後は、「action(行動)」。いくらミッションを掲げて情熱を持っていても、行動できなかったら何も変わりません。

 

三重に伊賀焼きで有名な町があります。伊賀焼きは400年の歴史があって、その窯元である長谷園さんとジャパネットたかた時代におつきあいがありました。そこで作られた土鍋が爆発的にヒットしたのですが、売れたのには秘密があります。その昔、伊賀は琵琶湖の底だったのですが、その土壌の粘土を使っているから、土鍋が息をするというのです。

 

なぜこんなにも人気があるのか、窯元のオーナーに訊ねました。するとオーナーは、「伊賀の里は素晴らしいものを作り始めて400年。職人はたくさんいるけれど、商人が少なかった。自分は職人としてだけじゃなく、営業マンとして一生懸命商品をアピールしているから、これだけの注文をいただくのです」と答えました。

 

いくらなにかを頑張っていても、それを伝えなければダメなのです。行動することが大事です。それを実現する方法が、上述したを生きるということにも繋がります。

 

<後編へ続く>

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次回は、シャネル株式会社 代表取締役 リシャール コラス氏をお招きして、5/24(木)18:30より開催いたします。過去のパイオニアセミナーの記事、今後のパイオニアセミナーの予定は、以下よりご確認ください

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