多様な意見を網羅し、対話を通じて合意形成へ導く/ファシリテーションスキル 内田 龍之介 講師

インタビュー 2020/1/7

WASEDA NEOで「ファシリテーションスキル」を教えていただいている内田講師に、ご自身の講義についてお話しいただきました。

 

講義内容を教えてください。

11回コースは、ワークショップを運営出来る基礎力を身につけていただくことを目標に作ってあります。ファシリテーションは座学では習得できない謂わば職人の技術のような側面があります。そのため、少なくとも半分の時間を出席者が頭と体を動かす演習にしています。

ファシリテーターの立居振舞から、最終回までにワークショップのプログラムを作成できるまでお伝えしています。

また、真似をするのが難しい個人技でなく、習えば誰でも実践可能なようにファシリテーションを要素還元して、一回一回順を追って習い積み重ねて行けば基本的な技術の習得が達成出来るようにしています。

また、退屈な講座にならないような工夫も随所にしていますから、楽しんで受講していただけることも強調したい点です。

 

どのようなきっかけ・狙いで、WASEDA NEOで講義を持つことを決めましたか。

私が目指しているのは、日本企業や組織をより強いものに仕立てていく手助けをしたいということです。
勤めていたドイツ系企業を退職した理由のひとつがそれです。

やれ、日本企業の間接部門の生産性が低いだとか、データの改ざんであるとか、XXの隠蔽であるとか、様々な問題が今も尚明るみに出ています。これは、考えるに企業文化や風土にそもそもの問題があります。問題が明るみに出た企業のホームページを見れば、そこには素晴らしい企業理念が語られており、とてもそんな問題が起きるようには思えません。

ドイツの企業だって、風土に問題のあるところは少なくないでしょう。しかし、少なくとも私の勤務していた会社は、立派な創業者の理念が末端まで行き渡るよう様々な取り組みを続けており、黒い文化・風土に染まりにくい体質を造っています。

企業理念というと、ともすれば壁のポスターに成り下がるのが普通ですが、これを忙しい従業員の時間を費やさせて、その意味するところを自分の業務に紐付ける作業を、ワークショップを通じて行なっていたのが、私の所属していた会社でした。

これを地道に数十万人の会社の末端にまで浸透させるのは、コスト的にも時間的にも非常に大きくなりますから、経営者が本気にならなければできることではありません。瀕死のIBMを建て直したルイス・ガースナーが言う、企業文化こそ経営であるという信念が必要です。

話しは変わりますが、実はこの理念を浸透させる企画には前段があります。それは浸透させる手段、つまりワークショップ・ファシリテーション技術を土台として根付かせることです。つまり、企業理念浸透の前から周到にそれを行なっていたのです。勿論理念の浸透のあとには、VisionとかMissionの確立など、次々に組織を強くする方法論を打ち出していました。

実にシステマチックな道筋です。お恥ずかしい話しですが、当時の私にはその全体観が全くありませんでした。今ならば良く分かります。

企業が健全に育つことは、そこに働く従業員も健全に育って行くことですし、こんな善いことをより多くの日本企業に知って欲しい、そして今後の参考にして欲しいと思いました。

WASEDA NEO には、ネームバリューもありますから、その私の想いを実現出来るひとつの最適解と判断し、講座を持たせていただいた次第です。

 

どのような受講者の方がいますか。

企業の経営陣から一般従業員の方まで、幅広い受講生がいらっしゃいます。この講座のポリシーでもありますが、全ての人を平等に扱うからかもしれませんが、受講者皆さんが非常に仲が良いと感じました。

また、講座の傍観者が出ないように作ってあることも手伝って、全員とても積極的に取り組んでいる姿を目にしています。あるいはそうではなくて、元々積極的な方々ばかりが集まっていたのかも知れませんが。

 

どういった方におすすめですか。 職種・業種・役職について等、適した方のイメージはありますか?

持論ですが、ファシリテーション技術は調理に喩えれば包丁遣いの技術です。これが出来ないと、どんな優れたレシピがあっても料理は上手く作れません。つまり、社会人としての基礎技術のひとつと考えています。さらに、ファシリテーションを英語でできるようになれば、巷に言う真の「グローバル人材」となるでしょう。

念のため申し上げますが、ワークショップ・ファシリテーションの技術とは、そこに参加している人たちの多様な意見を網羅し、対話を通じて合意に至るまで案内する技術です。諦念や妥協の産物としての合意ではなく、全員が前進を期待できる本来の合意です。

この技術をOJTで習得しようとしても、運良く技術の模範となる人に巡り会えることはなかなか期待出来ません。それに、仮に巡り会えても習得には相当の時間がかかります。
要素還元した事柄を体系的に習うのが早道ですし、どんな方でも習得可能な技術ですから、まだ取得していらっしゃらない方には、すべからくお勧めします。

ただ、人と交わる事のない仕事の方には不要な技術です。

 

 

今後の展望を教えてください。これから身に着けていくべきスキル、長期的に身に着けることで自身や企業に与える効果等は何でしょうか?

勤務していたドイツ系企業では、ワークショップ・ファシリテーションを1990年代からグローバルに取り入れる活動をしていました。私がこの技術を習得したのは2000年頃で、その後に日本法人に技術普及を始めたころは、「それって何?」というレベルでした。口の悪い人は、ワークショップをコーヒー・ミーティングなどと揶揄していたくらいです。

今の日本企業の多くは、その頃の認識レベルと感じています。

徐々に、ごく一般的な認識になっていくに違いないだろうと考えています。

 

企業で行なうワークショップは、少なくとも4時間を費やします。これを非効率と判断するのは早計です。実は細かい会議を何回も行なうより、はるかに効率の善い会議体だからです。そしてかかるコストを投資と捉えるべきです。開催後には、必ず主体的な活動が起きます。だって、自分たちで発案して合意した事柄ですから、実行性が高くなるのは当然のことです。

もうひとつ付け加えたい事があるのですが、ファシリテーション・ワークショップには、それを実に円滑かつ効率的・効果的に進めるための道具があります。しかしITの進歩に逆行するような、原始的な道具です。多くはドイツ製のものなのですが、日本ではそれが全くと言って善いほど普及していませんし、当然作っている企業もありません。欧米諸国はもとより、東南アジアでこれが普及していないのは日本だけかも知れません。ぜひともその道具を日本に普及させたいとも思っています。

 

内田講師、ありがとうございました。

WASEDA NEOでは、定期的に「ファシリテーションスキル」を開講しております。ご興味がある方はぜひご参加ください。