【レポート】シンポジウム「日本発のライフ・シフトを創造する」これからのキャリア形成における「学び」の意味とは?<後編>

イベント 2018/6/5

「人生100年時代」そして劇的に変わっていく世の中において、私たちは、学ぶことや、働くことをどのように考えて向き合い、人生を歩んでいけばよいのか。

中 編>に引き続き、4月25日に開催された早稲田大学社会人教育シンポジウム「日本発のライフ・シフトを創造する」での、パネルディスカッションの様子をお届けします。

 

日本では、雇用者・社員双方のスキルアップ意識が低い?

酒井:

では、次の話題にまいります。「リカレント教育」が話題になっているのですが、世界と日本の現状はどうなのかという問題提起です。これについてランスタッドの志水さんからお話いただきます。

 

志水氏:

私が所属するランスタッドは総合人材会社です。2003年から継続して33か国でやっている意識調査の結果をシェアしたいと思います。先に言っておきますが、データはデータで、会社の見解と私は違うことを言うところがあります(笑)ですので、みなさんもご自身の「問い」を持って聞いてください。

 

昨年の7月から8月にかけて、1万3千人以上を対象にして行われた調査ですが、「雇用主から何らかのスキルアップ支援がある」「スキルアップのために自己負担で実施しようと思っていることがある」という部分について、日本は参加国の中で最下位だったことが、新聞に掲載されました。教育、自分の学び、スキルアップ挑戦に対する意識がグローバルの中で低いということです。

 

ただ、良いこともあって、日本の社員は、自分を取り巻く環境が日々進化していて、求められるスキルが変化しているのを感じている。「常に遅れをとらないためには、さらにトレーニングや教育が必要であると感じる」人は、日本では非常に高くて83.7%です。

むしろグローバル平均のほうが低くて、72.1%。私はここがキーかなと思います。意識は高く持っているという。

 

ランスタッド社は、雇用主の支援と、自己負担での実施意欲はグローバルで最下位であり、特に、雇用主のスキルアップに対する支援が日本は低いということを大きく取り上げておりました。私はむしろ、個人がスキルアップや自分の学びに対して、実施していない、費用負担をしていない点に懸念を持ちました。

なぜなら、意識はあるのに「過去12カ月間で自分に投資しましたか?」の問いの答えが、日本では33か国で一番低かったのです。ここについて掘り下げていきたいと思いました。

 

性別による違いを見ると、雇用主のスキルアップ支援、自己負担による実施意欲というのは、グローバルでは男女の差があまりありません。日本においては、男性のほうがより会社から支援を受けている、という実態が非常に明確になっています。一方で、女性に対する支援が極端に低いことも明らかに。グローバルとの差が約3倍あるという結果です。

 

今日みなさんと考えてみたいと思うのは、ひとつは、雇用側、社員側双方のスキルアップ施策の実施率の低さについて。2番目は、スキルアップ支援、意欲のジェンダーギャップが明らかになっているという点。

長時間労働によって学びに時間が割けないということが起こっているのではないかと思うのです。それから、年功序列という制度や文化がいまだに組織に残っていて、「自分の学びに投資して、それがいったい何につながるのだろう?」というのが、見えづらくなっている。性別についてはデータを見ていかないといけませんが、日本においては明らかに違いがある。女性活躍支援ということがいろいろ謳われていますが、女性の登用を押し上げるためには、女性自身ももっと自分に投資していく必要や、成長の機会を自分から模索していく必要があるのではないか。

最後は、安藤さんに近いのですが、スキルアップをするということだけじゃなくて、やはり人生を豊かにして、自分自身の人生の選択肢を増やすということですね。

 

私が常日頃思っているのは、会社が社員を雇うというところから、会社と働く人が対等にならなければいけない。対等になるためには、ひとりひとりが専門性を高めて、会社を選ぶ立場にならなければいけない。キャリアアップだけじゃなくて、独立するにしても、人生を豊かにして、自分の選択肢を増やし、自分のやりたいことを実現するために、「学ぶこと」をオープンにしていかなければいけないと思います。

 

私の子どもは11歳ですが、「1日も早く働きたい!」と言っています。その理由は、働くことを楽しんでいる大人を知っているからです。そういう大人を見ていて、早く働きたい、学校に行きたくないと言っているのですが(笑)自分が起業するにしても、今の勉強は必要だよと言い聞かせて、学校に行かせています。

 

酒井:

今のレポートに対して、伊藤さんと安藤さんはいかがでしょうか。

 

伊藤氏:

このレポートは、僕がちょうど研究会をやっているときに出たので、非常に衝撃的でした。さきほど志水さんがおっしゃったように、企業の投資が減っていることもさることながら、働く人ひとりひとりの「自分株式会社」への投資がこんなに低いのか、と。

 

先ほど質問にもありましたが、「アプリを開発、アップデートするのは誰の責任なのか?」ということです。これについて答えはないのですが、私たちの暫定的な答えは、働き手、企業、そして社会および国。この四者みんなが責任を負っているのだと。そして、現在はこの四者ともその責任を果たしていないのです。自分という個人でも「自分株式会社」に投資していませんし、企業も現実的にこの10年働き手への投資が減っているのが事実です。これを少なくとも政策でなんとかしたいということで、経産省は例えば「人材投資を一生懸命やる企業には法人税の減免を上乗せする」としようとしています。おそらく本質的には、さきほど申し上げたように、「人生100年時代」で働く期間が長期化する中で、これまで「会社の責任」は基本的には「雇用すること」、「最後の定年までの雇用を保障すること」だった。それがいろんな意味で変わってきています。

 

先ほども申し上げましたが、ひとつの企業で80歳まで働き続けられるかというとそんなことはない。そうすると能力開発を自分でやらないといけないし、企業も後押しをする。これまで大人、社会人の学びについて企業の責任だとして支援をしてこなかった国も強化していく。政策としてリカレント教育に力を入れていく、ということです。

 

安藤氏:

「長時間労働が学びの時間を奪っている」というところは本当にそうだと思います。NPOでパパ向けセミナーを開催していますが、18時半に開始とすると「来られない」という人が出てくる。「なんで?定時で退出すれば参加できるでしょ」と言うと、「残業があるから来られない」と。せっかく学びの場を提供してもこの始末です。もちろん土日のコースもあるけど、「土日は休んで疲れを取りたい」から来ないんです。僕はライフシフトを楽しむための条件として「時間を何に使うか?」「識らないことを学んで、よいと思ったら実践してみる」ということがとても大事だと思います。

 

大和証券という会社は、11年前に全支店で19時退社をルールにしたそうです。先日会長にお会いしたら「やってよかった」と言っておられました。企業が成長するには、働き手、社員の持続可能な働き方をしないといけない。個人が会社の業務だけではなく、いろんなことを学んで成長することが、人間力を高めて、顧客からの信頼度も高める。ライフが充実することで仕事にも意欲的に取り組めるようになって結果的に営業の売り上げにもつながっているのだとおっしゃっていました。

 

会社に言われたことしかやらないし、それだけを長い時間をかけてやってしまう。それによってほかのことができない。疲れて帰ってきて翌朝また満員電車に揺られて会社に行くだけ。これでは個人にとっても会社にとってもよくないですね。貴重な資源である時間を、自分でどうメイクしていけるかということが、「学び」にとってもその先にあるライフシフトにとっても大事なのだ、と思っています。

 

人事は「ファシリテーター」であり「編集」になっていくべき

酒井:

では、最後の問いになります。リカレント教育の対象として、人事スタッフへのリカレント教育というものがあります。これも非常に大きな課題だと思うのですが、伊藤さんはいかがですか?

 

伊藤氏:

今日の話を通じて思うのは、働く個人それぞれが選択し、それぞれが働き、生きる喜びを得ていくことがとても大事だということです。これは企業の人事からすると結構大変です。ある意味で人事部受難の時代!そうですよね。働き方が多様化して、フリーランスも増える。副業する人も増える。定時に退社してファザーリング・ジャパンのセミナー行きたい人もいる。テレワークに至っては会社に人がいないのですから。人事は大変です。でもそういう現実なのです。

 

職場が多様化することを前提としてマネジメントする。「仕事が忙しすぎてマネジメントできない!」というのは根本的におかしくて、マネジメントはマネジャーの「仕事」です。それが多くの場合はプレイングマネジャーで、マネジメントができてないマネジャーが多い。そこは変わっていかなければいけない。

本質的に人事はパーソナライズされていないといけない。ひとりひとりにあった人事をしなければいけない。例えば私が所属する経産省には3,000人の職員がいますが、3,000人の職員にテーラーメイドの人事なんて全くやっていない。

それは技術的に難しいからですが、今は、テクノロジーで、AIやデータが第4次産業革命でかなりの分野に浸透してきている。人事の世界も同じで、採用も人事育成もAIとデータを有機的に使うことで、テーラーメイドの人事がかなり可能になっていくと思うのです。

 

これからの人事は、いわゆるオペレーションではない新しい人事。先端人事といわれる領域を含めて、新しい人事の考え方が必要だと。もうひとつは今後さらにテクノロジーのリテラシーが個人にとって必要になってくると思います。

 

志水氏:

自虐的ですけど、私は人事を将来的には無くしても良いと思っています。今、週末に自分の時間を使ってベンチャー企業の支援をするのですが、そこには人事はいません。そこにいる社員の人たちが、みんなでああだこうだ言って採用決める。それを見ると「人事って価値を生んでいないのかな」とさえ思います。

 

AI化が進んで、制度とか給与計算をAIがやってくれるようになる。そうなると、人事が付加価値を生むところというのは、ひとりひとりと対話すること。

あとは、人事はマネジメントからファシリテーターになっていく必要がある。ひとりひとりを信頼して、現場にまかせて、能力や可能性を引き出せるような場づくりをしていくということであれば、それができるのかなと思います。

 

去年、大手企業の人事の方から相談を受けたのですが、イスラム教の非常に優秀なエンジニアを採用したそうです。その方が「ラマダンがあるので家で仕事したい」と言うのに対してどうしたらいいかと。なぜこのような相談をされたかといえば、制度が無いからです。

私は「なんでダメなの?」と問い直しました。なぜなら、それをやらなければ、その方がやめてしまう可能性もあるじゃないですか。

 

先ほどもお話が出ましたけど、全体をひとつの枠組みや制度で管理するのがもはや無理があるのです。だから私は、「ほかの社員のモチベーションが下がるのではないか」とか「文句が出るのでは?」という心配に対して「文句を言う人の意識を変えたらどう?」と言いました。公正な、清く正しいえこひいきをすれば良いのではないか。これは「その人の価値観を大事にしていく」ということを、会社が発信するいいメッセージになるのではないかと思うのです。

 

こういうことは、これから絶対出てきますよね。外国の方を社員として迎えることも増えてくるだろうし、価値観の違う人が組織に入ってくる。そこで私たちは、どう対応するのか、どう向き合っていくのか。それが、これからの人事には最も大事なのではないかと思います。

 

安藤氏:

組織がピラミッド型で「24時間戦えますか?」と言っていた時代は、一括管理のマネジメントでよかった。だから、人事部も人の管理をしていればよかった。それが、ダイバーシティ化した組織でフラットになってくると、僕は管理より「編集」だと思うのです。人材の編集力がこれからの人事部に必要です。イノベーションを起こしたり、アウトプットがより出るような人材配置を編集したりすること。人材には、エクスプローラーだったり、ポートフォリオワーカーであったり、インディペンデントプロデューサーであったり、いろんなタイプがいます。そこをうまくコーディネートしひとつのチームにして、どう成果を出していくか。それが、これからの人事の本当の仕事なのではないかと思います。

 

 

※ここで再び参加者の皆さんが近くの席の方との意見交換を行ったのち、会場からの質問を受け付けました。

●人事が管理をしつつ人を司っていることが、企業の成長を阻害していて、人はもう少し自立的に自分のキャリアを勝ち取っていかなければいけないというのは理解できました。でも、実際の企業の中で、どうパラダイムの変革をやっていけば良いのでしょうか。まず、早い段階において、どういう人たちを捕まえて意識を変えていったら良いのでしょう。企業としては生産性をあげていくのが主要命題ですし、それがないと企業の幸せもないと思うので、そういうwin-winな関係というのは、どこから始めていくのが一番近道なのでしょうか。

 

 

志水氏:

あまり大きい声では言えないのですが、11月に転職して、もう愕然としました。ザ・日本型雇用管理人事部で、「社員は悪いことをする」という社員性悪説のループに入っていたのです。私の経験ですが、やはり変革をしようとするなら、ひとりでも仲間を見つけたほうがいいと思います。

「これが自分のやりたいことです」といったビジョンを口に出すと、組織の中に同じ考えの人がいることが分かります。そういう「うねり」のようなものに気づかせてあげることで、だんだん波動が広がっていく。人事に「あなたたちが変わらないとダメじゃない!」って直接言っても取り合ってくれないかもしれないけれど、現場に絶対同じ考えの人がいます。

 

私は、これまで7社で働いているので、そこの嗅覚がすぐれていて(笑)「この人に働きかけたら、組織に影響を及ぼしてくれるな」という人がどの会社にも絶対います。そういう人たちと組織の中でコミュニティをつくってもいいし、今は「One JAPAN」のようなところもあります。自分がやれることをやるというか、自分ができる場所からやるのが大事なのだと思っています。そうするとだんだん仲間が増えていきます。いかがでしょう?

 

実際、私の経験でも4カ月で会社が変わったと会社のみなさんが言ってくれます。もちろん快く思ってない人もたくさんいます。たくさんルールを撤廃しているので。稟議書をなくすなど「こういうのはいらない!」と、ザクザクなくしています(笑)ずっと働いてきた方は、「今までこうやっていたのに!」と反発することもあるけど、そうではなくて「会社を変えたい」とか「もっとみんなで楽しく働きたい」という人を増やしていくってことですかね。

 

安藤氏:

やはりトップのコミットメントがないと会社組織は動かないですね。ポストと給料を握っている人が変わらないと。僕は今「イクボス企業同盟」を182社でやっています。そこで求めるのはひとつだけ。社長のサインです。人事もダイバーシティ推進課も顔色見て仕事しちゃうから、社長が変わらないと何も変わりません。

 

でもトップダウンだけではなく、ボトムアップも大事。課長クラスに研修をやって、そこで何のために働き方を変えるのかを教えます。腹落ちした課長は改革を始め、スタッフはいきいき働き、それによって業務効率、生産性をあげて結果が出る。そうすれば経営層は「こっちのほうがいいじゃないか!」と言い始めます。このようにトップダウンとボトムアップがかみ合った瞬間に変わった組織をたくさん見てきました。有名なのはカルビー。ダイバーシティ、女性活躍ということで会長と社長がツートップで社内を大改革。それに呼応し時短勤務の女性が活躍して、その人が執行役員にあがった。それをみて他の社員もさらにモチベーションが上がる。そういう好循環を創っていくことが個人と企業の成長に繋がると思います。

 

志水氏:

今聞いていて思ったのですが、トップを変えるのは難しいですよね。こういう安藤さんのような外の人を活用するのはどうですか?

 

安藤氏:

確かに外の風を入れないと難しいこともあると思います。

 

伊藤氏:

今のお話は「働き方改革」全般にも言えることで、いろいろな「働き方改革」を進めようとしたときに、落とし穴がいくつかあります。でも、最大の落とし穴は、会社の利益利害と、働く人ひとりひとりの利益利害がバッティングすること。そこでカギとなるのは「やらされ感」だと思っています。やらされ感でやっている限りは進まない。

「国が旗を振っているから」…と、僕が言うのもなんなのですが(笑)、「会社の社長が旗を振っているから、人事が旗を振っているから」と、それで働き方改革が進むかというと、それでは変わらない。

 

では、明日から急にみんなが腹の底から働き方改革を進めたいと思うかというと、そうもいかない。そこはやはり「選択肢」だと思うのです。いろんな形で、自分はこれを選べる。自分はこれをやってみることができる。それを少しずつ小さなものから積み上げて、スモールステップで良いので、成果の見える化をしていく。それが働き方改革の王道ではないかと思います。

 

安藤氏:

仕事以外にやることがない人が多すぎますよね。その人たちが働き方改革のブレーキになっていると感じます。僕、イクボスの研修では「趣味を持ちましょう。帰りに絵手紙の本でも買ってください」と言っています(笑)。なんでもいいから仕事以外に何か夢中になれるものや、行きたいところを創ること。今はSNSで繋がりやすいから、会社の同僚だけではないコミュニティを持ちましょうと。これが楽しければ「早く仕事片づけよう」と人は考えますから、おのず働き方はよくなっていくと思うんです。

 

志水氏:

ここに来ている人は、変えたいという気持ちがありますよね?その人たちから、人事部の社員を誘ってください!「一緒に行きましょうよ」って。

 

社会人大学に通う人たちが「隠れキリシタン」になっている現状

安藤氏:

ライフシフト・ジャパンでも企業向けにライフシフトをテーマにしたセミナーを提案していますが、まだガードが固いなと感じます。「そんなライフシフトのモチベーションを持ったら、転職しちゃうじゃないですか」と。そうではなくて、そこで人間力を高めて還元しましょうよ、と伝えています。少し時間がかかるかもしれないけそ、そうやって社員の人生を応援してあげるほうが、良いと思うのです。最後は必ず返ってくるはずだから。

 

伊藤氏:

本当にそうです。リカレント教育も同じで、リカレント教育で社会人大学院に行く人たちの相当数が、会社に黙って来ている。

 

安藤氏:

内緒で行く!?

 

伊藤氏:

社会人大学院の草分け、法政大学で教えている諏訪康雄先生が「隠れキリシタン」とおっしゃっていました(笑)会社に言うと「こいつはやめてしまう!」と思われるからと。

私が「WASEDA NEO」に期待するのはその一点ですね。「隠れキリシタン」をもっとオープンにすること。隠れキリシタンではなくて堂々と。会社のルールはあるからそこに則りながらも、自分は学ぶのだ、ということを表立たせて良い。そして、できれば会社もそれを積極的に支援する。そんな組織、仕組み、社会になってほしい。

子どもたちに「働くこと」をどう伝えていくのか

●現在高校3年生の娘がいます。小学校から大学の付属に入れたのですが、大学受験をしたいと言っています。大学で何を勉強するかを悩んでいるようです。卒業後に働くことを考えたとき、「大学は就職のための予備校ではない!」と言うのです。例えば、司法試験に合格すれば法律事務所に就職する。外交官になるには外務省に就職する。大学教授を目指すには大学に就職する。何かになるためには、何でも就職なのかと。私はキャリアコンサルタントでもありますが、現在娘にプレゼンするため準備中です。

今の子どもは、これだけ報道されている「人生100年時代」を当然意識している。一度社会に出て学び直すこともありますが、現実的にはそれは簡単でない。伊藤さん、大学を、大学1年2年でもうインターンにいくような就職予備校にしないでください!

 

安藤氏:

僕も大学3年の娘がいて、もうすぐ就職活動が始まりますが、このあいだ言ったのは「就職よりも創職」ということ。これまでの日本では、就職は「就社」となっていました。それよりもこれからは自分で、職をつくっていくほうがいい。だから娘には、「就職して会社に入るとしても、開発部門に行ったほうがいいよ」と。会社に言われたことだけを淡々とやるよりも、その中で小さくてもいいから新しいアイデアを常に考え、目の前の仕事を改善したり、新しく形にしていくという仕事のやり方ができるようになると、そのうち自分の中で、大きなビジネスが生まれていくかもしれないから。

 

伊藤氏:

今日のお話で、「いろんな形で自分のキャリアを切り拓いていく」ということを申し上げました。「スリーステージライフはもう終わり」ということも申し上げました。子どもに対して、レールに乗って安定した仕事に、ということを親としては願います。

 

一方で、大人としてわかっているのは、安定したレール、終着駅までたどり着くと思っていたレールは、もはや終着駅まで行かないレールかもしれないこと。それは伝えていかないといけない。

 

安定かそうでないかという選択肢というよりは、「安定」の概念が変わってきている。だからといってベンチャーに行かなきゃいけないとか、大学出ていきなりプロフェッショナルになるということではない気もしている。例えば経産省に入りたいという学生も含めて、学生と会うことは多いですが、もちろんベンチャー志向の方は増えています。今年は銀行が大変な数の採用を減らしているので。それはつまり、銀行以外に人が流れているということです。日本の労働市場において、2018年は相当なターニングポイントになる気がしています。

 

ただそういう状況だからこそ、長いスパンの中で、大きな組織の中で働く経験をしてみてもよいのでは、という話はしておりまして、先ほどお話しした「行ったり来たり」、あるいは今のライフステージではこれをやりたい、でも次のライフステージに行ったら別のことをやるというのが、まだ遅々としてはいますが、そういうことができる世の中に近づいているのは間違いないので、そういう中で自らキャリアを選んでいくことかなと思います。

 

早稲田大学はその130年の歴史を持って、独自の教育産業の担い手を目指す

最後に、早稲田大学教務部長・法学学術院教授である古谷修一から会場の皆さまに「WASEDA NEO」立ち上げについての想いをお伝えしました。

古谷は、「早稲田大学の中退者はなぜ魅力的なのか?」と世間で噂されていることを冒頭にあげました。

 

「大学の教育はカリキュラムをもとにしていますが、早稲田大学はそれだけではない。早稲田の“場“にいることに、一定の教育的効果があるのではないか」との考えを述べます。

それは、”場“にいる人々の、熱量、情熱を感じて、交流することに一定の教育効果があり、教育効果の過剰な人がサークルやアルバイトなどに夢中になり、退学してしまうのではないかと、という推察だと続けます。

 

「サボっていたから中退したのではなく、やりすぎたから中退したのであると私は考えます(笑)早稲田大学の教育の本質とは、専門知識を得ることも大事ですが、それ以上に人間と人間のぶつかりあいから出てくる人間的力量が大事なのだと。先ほどお話にあった、“OS”の根幹は人間的力量であり、その人間的力量を養うのが大学なのです」

 

また、志水氏のお話にあった「日本人は自身のキャリアアップに投資をしない」ということを取り上げ、古谷は次のように述べました。

 

「社会人教育をやって莫大な利益を得るわけではありません。しかし、人が集まらないからといってやらないと、何も変わらない。人が集まるような教育の在り方を作っていく必要がある。これがWASEDA NEOの基本的なコンセプトです。」

 

最後に、伊藤氏の講演にあった「大学が一番変わらないといけない」という言葉を受けて、古谷は「その通りだ」として次の通り述べました。

 

「大学が一番変わらなければならない、その拠点がここWASEDA NEOです。他大学と比べてどうなのか、差別化はされているのか、ということではなく、独自の教育産業の担い手を目指す。それが早稲田大学であり、130年の歴史であり、早稲田大学の方向です。

 

そのためにも、早稲田大学自身がみなさんとぶつかりあいながら、新しいモデルを作っていきたいと思います」と締めくくりました。

 

 

◆参考URL

WASEDA NEO新設コース「人生100年時代を生き抜く『人間再開発(ver.0)』」

 

 

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