チェアマンになった2014年、ブラジルワールドカップが開催されました。
日本は初戦のコートジボワール戦で、本田選手が1点先制してリードしたのですが、(相手チームの絶対的エース)ドログバ選手が出てきた時に場内が一種異様な雰囲気に包まれ、2点入れられて初戦を落とし、結果、予選敗退をしてしまいました。
私はブラジルにいて、日本代表の戦いを感じていました。
一方で開催国ブラジルにドイツが7対1で圧勝しました。開催国の王国ブラジルが7点も入れられるということは、悪夢ですよね。
私はその時に、ドイツが一体何をやったのかを徹底的に調べました。もしかしたら私は、ストーカー気質なのかもしれないなと思うぐらい(笑)、ずっと追っかけました。そしたらベルギーのベンチャービジネスに行き当たりました。
「ダブルパス」という会社が提供している「フットパス」という商品で、プロクラブの選手育成の仕組みを採点する評価システムです。
(ドイツの)ブンデスリーガは1部2部合わせて36クラブ(当時)がこのダブルパス社の「フットパス」という評価システムを導入し、育成力を外部に評価してもらっています。約400項目5,000点満点で採点して評価しています。
三ツ星プラスから星0まで分けるんですが、ドイツのサッカー協会は「人を一生懸命育てること」を競わせます。良い人材が育てられれば、それがサッカーの再現性につながってくるのです。
当時の日本はどうだったかというと、あるクラブは育成に定評があるとか、あるコーチは育成のプロだなどと、非常に属人的だったり抽象的だったりで、そのコーチが辞めてしまうと指導方針が変わって再現性が保証されない非常に脆弱な内容でした。一方、ドイツはクラブ単位で(育成の)仕組みをしっかり調べに行って、育成が再現されると、高い点数がつくようになっていました。
例えば、クラブに育成ビジョンがあるかとか、クラブの資金によって育成したりしなかったりがないように恒常的な財政措置が取られているかとか。そういうものをちゃんと組織の中に位置づけて、正社員がコーチ陣でいるかどうか、キャリアアドバイザーがいるかどうか、子供達を指導する人的リソースがあるか、施設や設備は大丈夫か、というようなことを約400項目、5,000点満点で行っていました。
私はさっそくJ1、J2、全40クラブ(当時)に同じものを導入しました。ドイツが100点だとするとJリーグは40点でした。その時、私は心底喜びました。
なんだ、まだやってないことが60個もあるじゃないかと思ったのですが、その中でも特に「オーナーシップ」という項目が最低点で、ほぼ全クラブが0点でした。
そもそも「オーナーシップ」とはいったい何かと思い、話を聞いてみると、ダブルパス社の人たちが実際に練習でストップウォッチを持って計測しています。
何を計っているかというと、90分の練習時間の中で「今度の対戦相手はこういうチームなので、こんな練習をしませんか」と、選手が発案した練習メニューが全体90分のうち何%ぐらいだったかを計測していたんです。
日本では、長らく部活の顧問の先生にやれと言われることをやることが練習だと思われていました。そして監督やコーチに言われることをやることが練習だと思われていました。
先程のコートジボワール戦のことを、もう一回、自分なりに思い出しました。ドログバ選手が出てきた時に、日本代表のアルベルト・ザッケローニ監督はベンチから叫んでいますが、選手は(周りの歓声がうるさすぎて)誰も聞こえていません。
選手たちは、まずピッチを観察する。雨で濡れている。ディフェンダーが緊張している。ドログバ選手の動きにどう対応するか考える。例えばコンパクトにした方がいいのか、マンマークをつけた方がいいのか、ディフェンスラインを上げた方がいいのか、考える。そして1つの打ち手を判断する。判断した打ち手を今度はしっかりと仲間に伝える。伝えたものを統率する。統率したものをやり切る、やり切ったものを、もう一回1分後に観察する。考える。判断する。伝える。統率する。実行する。観察する。
サッカー場では、監督もタイムは取れないし、選手が全て自分達で考え判断する。サッカーの試合は自分たちがオーナーなのだから、リハーサルである練習も、選手たちがオーナーシップを持つべきだというのがドイツの考え方でした。
日本はドログバ選手が出てきた時に、多くの選手がベンチを見ていました。どういう指示が出るのか、と判断を待っているうちに戦況がどんどん変わっていきます。
ドイツは、個々が、先程お話ししたリバウンドメンタリティーを土台としてもち、観察して、考えて、判断して、伝えて、統率して、実行し、観察して、判断して、実行して…これを数分に一回のスピード感でぐるぐる回すというトレーニングをやっていました。
自分でやるという「オーナーシップ」です。