『Jリーグ村井満チェアマンの経営哲学』パイオニアセミナー開催レポート

イベント 2022/4/5

公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)チェアマン
村井 満 氏

1959年(昭和34年)8月2日生まれ。埼玉県川越市出身。1983年早稲田大学法学部を卒業後、同年4月(株)日本リクルートセンター(現(株)リクルートホールディングス)入社。2000年同社執行役員に就任。2004年に(株)リクルートエイブリック(現(株)リクルートキャリア)代表取締役社長。2011年にリクルート・グローバル・ファミリー香港法人社長、2013年同社会長。2008年日本プロサッカーリーグ理事(非常勤)に選任。2014年1月5代目Jリーグチェアマンに就任。2020年に4期目を迎え現在に至る。(公財)日本サッカー協会副会長。
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2021年12月2日に、パイオニアセミナー『Jリーグ村井満チェアマンの経営哲学』を開講しました。「チェアマン」の村井さんとしては最終講義となった本講座。在任期間を振り返りながら、様々な気づきを共有してくださいました。

 

本レポートでは、セミナー内容を抜粋してご紹介します。

 

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今日はまずこの直近2年間のコロナ禍でどんなことを考え、どんな気づきがあったかという自分自身の学びを振り返りたいと思います。

 

 

スピードは本気度の代替変数:コロナ禍でのJリーグの初動

 

私はチェアマンになる前に10年くらい人と組織の経営者としてやってきたので、どうしても人から組織を見てしまう癖があります。そういう意味で、経営者についてとか、従業員についてとかいろいろ考えることがあるのですが、まずスピードというのがすごく重要な要素だというのは前々から感じていました。

 

経営者はビビってきますと「ちょっと待て」と、「十分に調べろ」などと言って、時間を稼いだりします。経営者はあたかも真っ当なことを言いますが、実は判断ができずに、もっともらしく時間を費やしています。

 

私自身は経営者が本気であれば、スピードは高まると思っていましたし、実際コロナ禍でもスピードと向き合う時間が非常に多くありました。

 

 

2020年1月、まだコロナという言葉が無く新型肺炎と言って、国内感染者が1名の頃に、Jリーグは全クラブに新型肺炎担当をおくことを決定しました。

 

この後ダイヤモンドプリンセス号が話題になるなど、日本では大騒ぎになってくるのですが、その前の国内感染者が4名出た1月27日時点で、試合中止、または無観客試合とする際の判断基準を決めておこう、等々と話していました。

 

 

 

また、2月から始まるリーグ戦に備えて、アルコール消毒やマスクなどの対応についても考えようとも話していました。実はこのときJリーグは即刻5万枚のマスクの調達をしていました。

 

まだマスクの買い占めという話題が世の中にない頃で、5万枚でも全く問題なく調達できたのですが、こういう判断ができたのは、Jリーグがスポーツ界の中では一番早く開幕し、その開幕に向けて一生懸命に準備していた時期でもあったからです。

 

スポーツ界でもっとも早く警戒レベルを高める責任がJリーグにはあると思っていました。

 

日本国内では、まだそれほど警戒感がないように感じた時期でしたが、実は中国では相当な警戒があることもアンテナでキャッチしていました。

 

経営者はどんなことがあっても、スピード感をもって着手します。それが杞憂に終わればそれはそれでよく、それよりも出遅れたことによって逸する利益が非常に高いことを、常に考えています。

 

サッカーは点数が入りにくい競技です。シュートを打たなければ入らない。ただ守備について楽観的だと点を入れられてしまいますので、守備は心配性なくらい慎重にしなければならない。私たちはサッカーの仕事をしているので、そういった言葉をこの時期メンバーに呼びかけていました。

 

リーグ戦第1節前日の会議では、「第1節が始まるけれど、サーモメーター・体温計による体温測定、マスク、消毒液の準備は大丈夫か」ということを聞きました。

 

第1節終了後の2月24日、第2回の緊急ウェブ会議で、「救護室に運ばれた人はいたか。ちゃんと消毒はデリバリーできたか。」という振り返りをし、第2節に向けた意思決定をしました。

 

けれどもその夜に政府が招集した感染症の専門家が「この1、2週間が瀬戸際だ」という言葉をテレビで使っているのを聞きました。この「瀬戸際」という言葉が私の頭の中で何回も何回も響いてしまいました。新型肺炎が新たに指定感染症に認定され、中国では既にスポーツは無観客で試合をし、今、政府の専門家も「瀬戸際」と言っている。

 

一方、この時点では、イベントに関して、政府はやれともやるなとも言っていないんです。

 

私は第2節の前日に試合を「やる」と決めたにも関わらず、その翌日の午前中には再び全56クラブ(当時)の社長を緊急招集し、ウェブ会議を行いました。

 

「(政府の専門家による)瀬戸際という言葉をみんなどう考えるか」という問いのもと、様々な議論をした結果、私は26日に控えていたYBCルヴァンカップとリーグ戦第2節以降の延期を意思決定しました。この週は、大変な一週間でした。

 

このJリーグの判断を聞いたかどうかはわかりませんが、政府は翌26日になって、大規模イベントの自粛要請を行いました。学校の休校を発令したのもJリーグの判断の後でした。

 

 

Jリーグがこういう判断を出した時に、スポーツ界は紛糾したのですが、概ねポジティブな意見もあり、それを見極めた政府が判断したのかもしれません。

 

Jリーグは常にスポーツ界のファーストペンギンになろうと言っていました。

 

人より早く着手し、その分スピードをもって何回も何回もやり直すということです。PPT(PowerPoint)で丁寧な資料を作るよりも手書きでよいから早く、根回しよりも突破する最短のアプローチを、このようなことが、経営者の一つの判断軸でした。

 

 

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